【訪問看護】成長するため買収して大きくする、ではなく売却して大きな企業へグループインへ
訪問看護を運営されていた三縄様。会社のこれから、を考えて10年運営された会社の売却を決断されました。 訪問の時間が午前中、午後など大まかな設定に疑問を持たれ、 医療業界の常識を変える努力をされてきた三縄様のM&Aに至る経緯や当初検討されていた買い手から売り手へ変わった理由をお伺いいたしました。
インタビュアーブティックス株式会社 坂田
【坂田】 なぜ看護事業を始めたのですか?
【三縄様】15年ほど前に在宅歯科訪問診療をクリニックの立ち上げからやりました。
そのなかで口の中だけでなく全身含めて訪問看護、看護師主体で在宅医療を提供できないかと思ったのが大きなきっかけのひとつです。
【坂田】 もともとサラリーマンだったと聞きましたが、その後起業されたのですか?
【三縄様】1年だけサラリーマンをやりました。 2年目は歯科の医院長と訪問歯科事業を一緒に立ち上げから始め、一からクリニック外来、往診の立ち上げをして、 それらの事業が落ち着いたタイミングで、自分の事業である訪問看護を立ち上げました。
【坂田】訪問系サービスという括りであれば訪問介護など訪問看護以外もあったと思いますが、なぜ訪問看護を立ち上げることにしたのでしょうか?
【三縄様】今は訪問看護事業を立ち上げた頃から10年経って大きく変化したとは思いますが、10年前は先生が来てくれるだけでありがたいという感じでした。
往診の時間も午前中に来ます、午後に来ますという感じで。
患者さんにもそれぞれ生活があるので、午前中午後中という長い時間の中でいつ来るのかわからないという状態では利用が難しかったのです。ただ、それが医療業界の常識でした。
しかしそれを一般の社会に置き換えたときに、午前中に来ますというような予約はレストランではしないと思います。
その一般的な考えを医療業界に持ってくることが出来れば、訪問医療がもっと使いやすくなるのかなと思いました。
実際、いつ来るかわからないことが嫌で、「訪問医療は使いにくい」という人が多いです。それは歯科の往診をやっているなかですごく感じました。
その部分があるから、そこを変えれば参入しやすいし、医療業界の常識は変えられるところはたくさんあると思いました。
【坂田】この10年で市場は変わってきましたが、設立当時はプレーヤーが少なく、医療法人がメインだったと思います。
【三縄様】そうですね。自分の地域では株式会社で訪問看護を運営しているところは少なかったです。全くなかったわけではないですが。 医療法人や看護師が立ち上げる、という医療の方が医療の枠組みで訪問看護を始めるのが主流でしたね。
【坂田】事業は順調に成長してきていましたが、なぜ譲渡しようと思ったのでしょうか?
【三縄様】結果的には譲渡になりましたが、最初は買収を検討して相談を始めていました。
人数が法定の2.5人、スタッフ4~5人から始めて、いまは50人ほどになりましたが、その中で0から10はできたと思います。
ですが、次の、10から100のステップを踏もうと思った時に、事業所を増やしていく、全国展開していくのかを考えたときに、自分はそういったことが苦手だなと思いました。
それよりも一つの手段としてすでにいろいろなところでやっている企業のノウハウをいただいて自分たちのノウハウをシナジー効果でつなげることが出来たら、
スタッフや利用者全員がWINWINになるのではないかと思いました。
【坂田】M&Aを、買いを含めて考え始めたのはいつ頃からですか?
【三縄様】3年半くらい前になるかと思います。6~7期を迎え、小さいところを買えるくらいの資金はありました。
【坂田】ブティックスを知ったきっかけはなんだったのですか?
【三縄様】展示会に出展しているのを見かけたのが初めです。その時は買いを検討していたので、名刺交換をしたのがきっかけです。
【坂田】私との最初の入り口はHPの簡易査定からでしたが、売りの相談をする際に抵抗はなかったでしょうか。もとは買うことを検討していたそうですが。
【三縄様】簡易査定をしたのは、買うにあたって自分の会社の規模感はどれくらいになるのか、ベースを知りたいと思ったからです。
【坂田】買収を検討していた中で、売却を決断したのはいつですか?
【三縄様】査定後、坂田さんと相談して詳細な査定をするために会社の資料を少しお渡したところ、
自分が思っていたよりも査定の金額が高かったことと、坂田さんと話していく中で今後事業を広げていくことを考えたときに、買収だけではなく売却も方法の一つだということが具体化してきました。
そこで募集を出してみたら多くの企業から応募いただき、売却を進めることにしました。
【坂田】トップ面談での複数の方にお会いしていましたが、いかがでしたか?
【三縄様】たくさん会いました。自分が思っていた以上に興味を持ってくれる会社が多くあることに気が付き、売却への大きなきっかけだったと思います。
あえて、会う前にお会いする企業について調べずに、フラットな状態で会いに行きました。
お会いすると社長さんや社員さんのカラーが出てくるので、自分と会うかどうかの見極めをすることが出来ました。
【坂田】トップ面談で自分の言葉で説明していく中で売却の意思が固まってきたのでしょうか?
【三縄様】そのとおりで、トップ面談で相手の方から聞かれるところはみんな同じでしたが、 全く同じ質問でも回答によって相手の反応が違うので、その中で自分の整理ができ、 次はこういう風に伝えてみようかな、売却理由は別の角度から話してみようかなと数をこなすうえで売却についての考え方が変わってきました。
【坂田】複数のオファーが出ていましたが、今の会社を選んだ理由はなんだったのでしょうか?
【三縄様】最終的に2社と話すことにしました。その2社のどちらにするかとても悩みました。 トップ面談を一度した後、今の会社からもう一度面談をさせてくれないかという話をいただきました。 その時点で、そこまで自分ときちんと向き合って話をしていただけるのか、とうれしく感じました。 そうやって向き合ってくれるなら、自分としてもお話を次のステップへ進めていきたいと思いました。
【坂田】シナジー的なところでは、仕組化などに関してどのように会社の未来を見据えていたのですか。
【三縄様】自分の会社には50人程度しかいなかったため、設立から10年たっていたものの、仕組化が出来ませんでした。 理由としては、自分も現場にいたので、仕組化しなくてもある程度業務を回すことができたためです。 しかし40名を超えたあたりから統制が取れなくなってきて、マニュアルの整備や仕組化が必要だと痛感していました。 これらは1~2年前から感じていましたが、手を付けることが出来ていませんでした。 その部分について譲渡先とも話をして、譲渡先のマニュアルや仕組みを活用するイメージが湧きました。 また、さらに、グループインすることで現場スタッフのステップアップや、希望するスタッフには本部へ行くなど、今後のキャリアを考えることが出来る環境があることも伺い、非常に魅力に感じました。
【坂田】トップ面談から契約まで5か月ありましたが、その間はどうでしたか?
【三縄様】正直大変でした。提出する資料の量や聞かれる質問も多かったです。それらの資料の必要性は理解していますが、用意するのは大変でした。
坂田さんのサポートがなければ、5か月では終わらなかったと思います。
【坂田】全体を通して弊社のサポートはどうでしたか?
【三縄様】仕事が早かったです。資料はすべて坂田さん経由でしたし、緊急で知りたいことも電話で対応していただき、とってもやりやすかったです。安心感がありました。
先ほども言いましたが、準備する資料も手伝ってもらいました。
いい意味で自分と譲渡先の中間に立ってもらっていて、日程の調整などいろいろしてもらいました。
【坂田】契約締結をして3週間経ちましたが今の状況はいかがですか?
【三縄様】いったん大きな区切りはつきましたが、引継ぎがまだ残っており、ほぼ毎日出社しています。
一か月ほどたてば大きな引継ぎは終わるのではと思っています。
そのあとはまだ細かい引継ぎは残っていると思うので、その場合は電話対応または必要に応じて出社してする必要があると思っています。
今の気持ちは自分の中では一区切りついたけれど、まだ少しやることが残っているなという状態ですね。
【坂田】従業員への引継ぎや説明はどうでしたか?
【三縄様】契約の翌週に説明会をしました。説明会では初めて聞いたことだったので従業員からは何もリアクションはなかったです。 その後個別面談をするにつれて、細かい業務内容、働き方についての質問が出てきました。 個別面談での質問事項の数を見て、みんな不安なのだなと思いました。 やはり働き方については質問が多かったです。
【坂田】引継ぎの際に気を付ける点はありますか?
【三縄様】個別面談でたくさんの質問が出てきて、その質問の回答を個別に買い手さんが回答してもらったのですが、
その回答についてスタッフ同士で話し合うため、又聞きで聞いたスタッフの回答の内容の理解が少しずつ変わってきてしまっていました。
ニュアンスやとらえ方によって変わるため、スタッフ間でいろいろざわざわしてしまいました。
そこで譲渡先が質問の文字起こしをしてQ&A形式でリストを作り、全員が回答を文字で見ることで一定の理解ができるようになり、スタッフの不安の解消ができました。
これは最初からやっておけばよかったと思いました。
【坂田】今後はどのように過ごされるのですか?
【三縄様】これまでずっと在宅医療や介護をやってきたので、今からもう一回会社を立ち上げるかどうかに関わらず、これまでの経験を活かしたことをしたいと思っています。
【坂田】これからM&Aを検討している方へメッセージはありますか?
【三縄様】売却をしなくてはいけない人、すぐにしなくてもいい人といろいろいると思いますが、売却をそこまで焦る必要はないと思います。
でも、情報収集だけでも動いていないと、いざというときになにもできないので、M&Aという選択肢を頭の片隅に置いていくのがいいと思います。
たとえば、自分のやっていた訪問看護の話にはなりますが、拡大のために企業を買収したいと思っても、、なかなか売却案件が出てこなかったです。
情報を見ているだけでも経験値はたまってくると思うので、まずは問い合わせしてみるのもよいのではないでしょうか。
売却にしろ、買収にしろ、選択肢として頭の片隅に入れておくのが良いと思います。