急増する介護事業者
平成11年の介護保険制度創設以降、有料老人ホームを始めとした介護事業所の数は急速に増加してきました。これに加えて、平成23年の高齢者住まい法の改正により、サービス付高齢者向け住宅(サ高住)への手厚い支援が開始されたため、特に中低価格帯の高齢者向け施設・住宅市場は激しい競争にさらされています。

(出典:厚生労働省)
競争激化による入居率の低迷
一般的に入居率が70%に満たない高齢者向け施設・住宅の運営状況は厳しいと言われています。
上記の様に、短期間で急激な建設ラッシュが起きた結果、立地条件の悪い施設や価格設定の高い施設等は新設施設等との競争において不利な状況にあり、その結果入居率が低迷するという事態に陥っています。
野村総合研究所の「平成28年度 高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査研究」によりますと、有料老人ホームの11%、サ高住の16.4%が入居率70%を下回っているというアンケート結果が出ています。
入 居 率 | 介護付有料 老人ホーム |
住宅型有料 老人ホーム |
サ 高 住 |
---|---|---|---|
70%未満 | 11.0% | 12.0% | 16.4% |
70%以上 | 89.0% | 88.0% | 83.6% |
介護人材の不足と採用コストの増加
アベノミクス効果で企業の採用意欲が回復傾向にある中、相対的に給与水準が低い介護分野の有効求人倍率は、全産業平均より高い水準で推移しています。
また、事業所の規模が小さくなるほど、離職率が高くなる傾向にあり、小規模事業所の採用コスト負担は高くなる傾向にあります。
【資料3-1】有効求人倍率の推移
(出典:厚生労働省)-
【資料3-2】事業所規模別の離職率
(出典:厚生労働省)
介護報酬改定の影響
社会保障制度の持続可能性を確保するため、政府は社会保障給付費の抑制策として、介護予防の充実や、施設介護から在宅介護へという大きな方針を打ち出しております。
3年に1度の見直しが行われる介護報酬の改定に大きく反映されます。
平成27年度の全体平均では、最終的に介護報酬が▲2.27%の減額となりました。
短期間に開設可能な小規模デイサービス等は、従来、比較的利益の出やすい介護報酬体系となっており、急速に拠点数を増やしていましたが、サービスの品質担保に課題が出てきたことや、儲け過ぎ批判等もあり、平成27年の改定では▲10%と大幅減額改定となる項目が出てきました。
平成30年の報酬改定では全体平均で+0.54%の増額となりましたが、基本報酬部分は減額、一定のサービスレベルを確保した事業者への介護報酬加算項目は増加しており、高品質なサービスを効率よく提供できるオペレーションが、以前よりも強く求められています。
大手企業によるM&Aが積極化
上記の様な状況のもと、効率的な運営が得意な介護事業者や、ブランド力・資金力をもった介護事業者等は積極的に施設等の新設を行い、施設数を大きく拡大することで、スケールメリットを活かした経営を行ってきましたが、立地条件のよい土地の売却が少なくなってきたことや、業態によっては総量規制により制度的に新設が制限されていることから、M&Aにより事業や会社ごと買収したいと考える事業主が急速に増加してきています。
また、日本における数少ない成長市場として介護業界が注目を浴びていることから異業種からのM&Aによる新規参入も活発になってきています。

【資料4】介護事業者の二極化
介護市場におけるM&Aの今後の展望
今後もスケールメリットを活かすため、資金力のある大手の介護事業者は積極的にM&A戦略をとることが予想されます。
また、異業種の大手企業も、更に参入してくると思われます。
一方で、中小規模の介護事業者は、高品質なサービスを効率よく提供できない限りは、厳しい環境にあると考えられますが、
利用者がいる限りは廃業が難しいという事業特性があるため、他の事業者への売却・事業譲渡は更に増加するものとみ込まれます。