2023年12月22日
介護保険制度

令和6年度介護報酬改定の改定率のゆくえ

令和6年度介護報酬改定の改定率のゆくえ

令和6年度報酬改定の全体改定率が決定しました。診療報酬は本体0.88%(薬価マイナス0.96%)となります。介護報酬は1.59%(うち0.98%は処遇改善加算)となります。加えて、処遇改善加算の1本化に伴うプラスや、光熱費の高騰対策などを含めた実質は2.04%となります。ただし、0.98%の処遇改善加算は2年分として割り当てられた予算であり、2年に分けて支給するのか。2年目は別枠での追加対策を行うのか。最終調整が行われているところであり、2年目に別枠となれば、更なるプラスとなります。

介護報酬は過去2番目の大幅プラス改定に

2009年改定の過去最高プラスの3.0%に次ぐ、過去2番目に大きなプラス改定となります。また、同時改定において、介護報酬が診療報酬を上回るのは初めてのことであり、異例とも言える改定となります。 介護報酬は前回(令和3年度)0.7%、前回の同時改定となる前々回(平成30年度)は0.54%であり、過去2回を大幅に上回る改定率となりました。それでも、介護現場の厳しい実情や、物価高騰に対する他産業との賃上げの格差の状況を考えると、多くの介護事業者や職員の方々には十分な数字の改定率ではないと感じるかもしれません。しかしながら、厳しい財政事情に加えて、社会保険料負担を引き上げることへの厳しい世論の情勢、更には少子化対策への財源確保に向けた社会報酬費の削減方針が示される大変厳しい条件の中で勝ち得た価値ある改定率となりました。

私が代表を務める全国介護事業者連盟がリーダーシップを発揮し、他の関係団体とも様々な連携、協力の賜物で勝ち得た数字です。先週時点では財務省からの最後通告は1%程度でありました。そこから更に倍を超える数字となったことには安堵しています。

ここから見直しの最終調整へ

この全体改定率の決定とともに、令和5年12月18日開催の介護給付費分科会において、「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告」が取りまとめられました。今後は、審議報告に基づき、全体改定率から各サービスおよび各加算への単位数の割り振りの調整が行われていくことになります。合わせて、加算や見直しの中身の詳細についての最終調整が行われることになります。各サービスへの割り振りにおいては、11月10日に公表された「令和5年度介護事業経営実態調査」で示された収支差率が参考データになります。もちろん収支差率だけの単純数字の比較で全てが決まるわけではありませんが、重要な指標となります。

各サービスの収支差率と経営状況

全サービス平均の収支差率は2.4%であり、コロナ禍での大きな影響を受けた昨年度の概況調査は2.8%ですから、更に0.4%収支差率が悪化しました。これは、継続したコロナ禍の状況に加えて、物価高騰による影響も大きいと思います。個別サービスの収支差率を見ていくと、何と言っても特養はマイナス1.0%、老健はマイナス1.1%と、いずれも調査開始以来で初めてのマイナスとなりました。その他にも施設、居住系サービスは総じて厳しい数字です。対して、在宅系サービスの多くは昨年対比プラスとなっていますが、それでも通所介護は1.5%(前年対比プラス0.8%)、地域密着型通所介護は3.6%(前年対比プラス0.5%)、小規模多機能は3.5%(前年対比マイナス1.1%)、看と決して収支差率が高いわけではなく、引き続き、厳しい経営状況にあることが示されています。一方で、数字だけみれば高い水準の収支差率を示したのが、訪問介護は7.8%(前年対比プラス2.0%)、定期巡回は11.0%(前年対比プラス2.9%)、夜間対応型訪問は9.9%(前年対比プラス6.1%)と訪問系のサービスです。しかしながら、表面通りの数字で解釈すべきではありません。訪問介護は深刻なヘルパー不足から経営環境は厳しく、地方では閉鎖する事業所が多数の状況であり、訪問系サービスは総じてコロナ禍での職員の減少によるやむを得ないコスト削減が進んだ結果として、収支差率が高まったと分析されています。加えて訪問介護においては、サ高住宅や住宅型有料老人ホームなどの集合住宅を中心としている事業所の割合が高まってきていることで、収支差率を押し上げた可能性も指摘されています。

今後の最終調整のゆくえは?

いずれにせよ、この数字結果は一定の影響を及ぼすことは間違いなく、施設系サービスにおいては、大きな報酬増が期待されるところであります。逆に、介護給付費分科会で示されている各論点において、集合住宅における更なる減算を求める対応案や、定期巡回、小多機、看多機の総合マネジメント体制強化加算の削減方針、訪問看護におけるリハビリ職によるサービスの適正化を求める対応案などは、この収支差率を参考としていることは明らかであります。ただし、今回の全体改定率のプラスを受けて、これらのマイナス幅を弱めるための原資が少し出来たことにもなりますので、今後の議論に期待したいと思います。いずれにせよ、今後の最終調整に向けた動静と、最終結果の発表に注目していきたいと思います。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

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