2024年12月26日
事業運営
財務情報の提出と新たな支援補助金がもたらす経営への影響

財務情報の提出と新たな支援補助金がもたらす経営への影響

【目次】

  1. 1. 事業所の財務状況が分かる書類の報告が義務化
  2. 2. 経営情報の提出義務化と公表制度の見直しは異なる制度
  3. 3. 処遇改善のための補助金について
  4. 4. 生産性向上の取り組みが介護職員処遇改善加算の算定要件に

1. 事業所の財務状況が分かる書類の報告が義務化

10月の衆議院選挙が終わり、介護行政の動きが慌ただしくなっている。
遅れていた経営情報の提出義務化に伴い、データベースシステムの運用マニュアルが発出された。 また、新たに見直された介護サービス情報公表制度により、今年度から事業所の財務状況が分かる書類の報告が義務化された。
具体的には、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の提出が求められ、法人の財務データが一般に公開される仕組みが導入された。

2. 経営情報の提出義務化と公表制度の見直しは異なる制度

経営情報の提出義務化と公表制度の見直しは異なる制度である。
経営情報の提出では法人を特定できない形でデータが公開されるが、公表制度の見直しでは財務データが一般公開される。 この制度は、すでに障害福祉制度で実施されている仕組みを踏襲しており、すでに障害福祉制度では提出を怠る場合には報酬が10%減算されるという厳しい対応が取られている。 介護保険制度においても次回の改定で同様の措置が取られる可能性が高く、法人の決算書が一般の目に触れることで経営状況が透明化される。 この透明性の向上により、金融機関や取引先、職員との関係に大きな影響が及ぶとともに、大きな赤字を抱える法人には黒字化の対策が急務となる。

また、公表制度においては、会計の区分で処理がされていない場合は、法人一括での財務諸表の提出も認められているが、 この場合は、法人の決算書自体が一般公開されることとなり、財務情報を職員などに公開していない場合は影響が大きい。 会計の区分による処理を行って、事業所毎の財務諸表として公開すべきである。この場合の会計処理方法については、顧問を依頼している会計事務所と打ち合わせて頂きたい。

3. 処遇改善のための補助金について

このような状況の中、11月22日に閣議決定された「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策について」を見ると、 厚生労働省が生産性向上や職場環境改善に真剣に取り組んでいる姿勢がうかがえる。 介護人材の確保は喫緊の課題であり、さらなる賃上げを目指した施策が重要視されている。 その一環として、年度内に処遇改善のための補助金が緊急的に設けられる予定だ。 しかし、この補助金の受給には、業務の洗い出しや効率化、改善方策の立案といった生産性向上の実施を前提とした取組を行うなどの厳しい要件が課されている。 施設系では生産性向上推進体制加算の取得が前提とされ、この加算の上位区分を満たすためには、見守りセンサーやインカム、介護記録ソフトなどの導入が必須となる。

4. 生産性向上の取り組みが介護職員処遇改善加算の算定要件に

令和7年度からの介護職員処遇改善加算の算定要件にも生産性向上の取り組みが盛り込まれる。 この取り組みは、業務改善委員会の設置や現場の課題分析、5S活動を通じて、現場での業務効率化を図ることを目的としている。 現場職員を含めた課題分析や業務フローの見直しを通じて業務の無駄を洗い出し、次に5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)による業務環境の整備を進めることで、効率化が達成される。 そして、これらの基盤の上に介護記録ソフトや介護ロボットの導入を進め、さらなる業務改善が期待されている。

一方で、小規模事業者にとってこれらの要件を満たすことは大きな負担となる。 業務の洗い出しや棚卸しに必要な時間やコストが重くのしかかり、補助金の取得や要件の達成が困難なケースも多い。 その結果、処遇改善加算の上位区分を算定する事業者は減少し、賃金格差が広がる可能性がある。 特に人材不足が原因で小規模事業者の倒産や廃業が進む中、賃金水準の引き上げがますます重要となっている。

現実的には、国は制度を守ることを優先しており、個々の事業所を保護する責任は経営者自身に委ねられている。 このため、経営者は自らの責任で生産性向上の取り組みを推進し、持続可能な事業運営を目指す必要がある。 また、行政やコンサルタントなど外部の支援を積極的に活用し、限られたリソースを有効に活用することが求められる。

こうした取り組みが進む中で、現場の声を反映した柔軟な制度設計や、特に小規模事業者に対する支援策の拡充が不可欠であると考えられる。 人材不足や業務の負担増といった課題に直面しつつも、経営者が新たな取り組みを通じて事業の発展を実現できるような環境整備が今後の重要なテーマとなるだろう。

介護分野の生産性向上・職場環境改善等による更なる賃上げ等の支援
ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表。 一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。 一般社団法人介護経営研究会 専務理事。 一般社団法人介護事業援護会理事。 C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。

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