ICTの推進という言葉は厚生労働省の資料にも多々でてきているが、単に紙であったものをシステムに移行しても現場で実際に使っていかれるのか、というとなかなか難しいものがある。
一朝一夕でできるものではないが、どのようなポイントでICT化を進めていくべきなのか、まとめてみたので、参考にしていただきたい。
1. 職員が楽になったと実感することが重要
生産性向上、すなわちICT化や業務改善は、上からの押しつけでは現場サイドでの活用は進まない。
職員が納得して使うことが最前提であり、職員が使って良かった、仕事が楽になったと実感して、初めて導入が成功したと言える。
ICTの活用は目的では無く、あくまでも手段であって、その先にケアの品質の向上、職員の生産性の向上がある。
オンライン研修によって時間の拘束が無くなり自由度が増した。夜勤者が眠い目をこすって対面研修に参加する必要がなくなり、これだけでも効率化は実現出来ている。
コロナ禍の影響でオンライン会議システムとオンライン研修が普及した結果、職員は自分の時間を有効に利用出来るようになっている。
2. 現場の課題をアセスメントすることから始める
ICT化を進めるに当たって、第一に必要な事は、トップ層の生産性向上への取組の意思を現場に対して明確に伝えることだ。
その上で、現場職員を含めた委員会を発足させ、介護現場の課題をアセスメントすることから始まる。
都合のいいところだけ見るのではなく、今現場が何に苦しんでいるかに正面から全部向き合うことが大事である。
ここで活用されるツールが、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)である。この技法を用いて、3M(ムリ、ムダ、ムラ)を排除していく。
その課題解決のアプローチはアナログ的な取り組みもあれば、役割の転換もあれば、テクノロジーの活用もある。その上で、導入すべきICTの選択肢が出てくる。
そして、業務オペレーションの効率化とか省力化といった成果を考えていく。
3. ペーパーレス化はオペレーションの見直しとセットで
ICT化のキーワードの一つがペーパーレス化である。 ある程度、ペーパーレス化を進めていても、介護現場でよくあるのが、排泄表、食事表、入浴表といったものが、まだ紙の帳表として残っている事である。 なぜ、そのような事になるかというと、そのシステム自体が現場のオペレーションに沿っていないことが原因である。 朝食、昼食、夕食、排泄の状況、バイタルの状況、 入浴の予定などが一覧で見える仕様でないので、使いにくいという声を聞く。 そのため、わざわざ紙で必要な情報が表示されるように手で作っているのが実態である。ICT化だけでは、入れただけなので価値を生みださない。 これを現場にあった形のオペレーションに直したり、データを使ったりする必要がある。ICT化は、トップダウンだけではなく、ボトムアップで課題を分析して進めなければならない。
4. 生産性向上の目的は介護サービスの質の向上
介護ロボットや見守り機器だけがICT化では無い。ICレコーダーとAIを用いた自動文字起こし機能と議事録作成機能を使うことで、書記や議事録の取りまとめの時間が大幅に短縮される。
バイタル測定器などと介護記録ソフトを連動することで、朝のバイタルチェックの記録が自動化される。これだけでも、職員の業務負担が大幅に軽減される。
介護ロボット等のテクノロジーを活用して業務の改善や効率化等を進めることによって、職員の業務負担の軽減を図る。
業務の改善や効率化によって生み出された時間を、直接的な介護ケアの業務に当て、利用者に職員が接する時間を増やすなど、介護サービスの質の向上につなげていく。
これが、介護サービスにおける生産性向上の目的である。
5. しっかりと階段を上るようにステップアップする
ICT化の弊害となっているのが、PCなどを苦手とする職員の存在であろう。そのために、介護記録ソフトやケアプランデータ連携システムが中々、組織に浸透しない。
職員が使いやすいソフトを選択する。ここから、ICTアレルギーを払拭することで、スムースなICT化が可能となり、職員も安心して紙ベースの業務から脱却できる。そして初めて業務の効率化が進む。
これらの業務改善は、現場目線が無いと難しい。それが成果になっていくと、新しいケアの形も見えてくる。
そこまでいくと、 介護DX(デジタルトランスフォーメーション)となっていける。これができると、自分たちの働き方の変化が実感できる。
大事なことは、一気に改革を求めずに、しっかりと階段を上るようにステップアップすることである。
介護現場の生産性向上の推進/経営の協働化・大規模化 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001144295.pdf