一般社団法人全国介護事業者連盟
理事長 斉藤正行
令和6年7月24日開催された厚生労働省の審議会で今年度の最低賃金の目安を全国平均50円引き上げて1054円とする方針がまとめられました。 50円増は、過去最大の上げ幅となり、介護現場にどのような影響が生じるのか論考したいと思います。
最低賃金引上げが起こす介護事業者への影響は?
長引く物価高騰の状況の中で、賃金価値が目減りをしており、最低賃金を大幅に引き上げる方針には妥当性はあります。介護職員にとっては、他産業の賃上げに遅れが生じないように、更なる処遇改善を期待することが出来るため大いに歓迎されます。
一方で、人件費増による介護事業者の経営への影響は多大であり、業界に大変大きな衝撃を与えています。
介護事業者は、無資格・未経験等の人材雇用に際して最低賃金をベースに給与規程を整備しているケースも少なくありません。最低賃金が上がれば、その最低ベースを引き上げる必要が生じます。ただし、最低賃金で働いている職員の給与だけを引き上げれば済むわけではありません。各社の規程の在り方次第ですが、資格や経験等に基づく給与規程を設けている場合、最低ベースの賃金が大幅に上昇すれば、その他職員との逆転現象が生じかねません。
結果的に、その他職員の給与も段階的に引き上げる必要が生じます。
令和6年度介護報酬改定に伴う処遇改善加算の上増し分については、すでに改善計画書を提出し、賃上げを行っている事業者が大半であろうと思います。
今回の処遇改善加算は2年分として配布する異例の措置となっており、来年度の処遇引き上げ原資として留保している事業者には、まだ対応する余地が残されていますが、その他の事業者の多くは、
新たな給与規程の見直しに伴う人件費増で利益が圧迫されることになります。
今年の上半期は、介護事業者の倒産件数が過去最大であるとの民間調査会社によるデータも示されているところであり、最低賃金の大幅引き上げによって、今後、更なる倒産件数の増加も見込まれることとなり、大変危惧をいたします。
今後の最低賃金の上昇の対策とは
介護事業者としては、処遇改善加算の活用に際しては、今後も最低賃金の上昇を見据えた給与規程の設計が必要であるとの教訓にする必要があります。
同時に、この最大上げ幅の最低賃金が正式決定となれば、事業者の経営努力だけでは対応に限界が生じることとなり、
政府による介護事業者に対する追加支援策や、新たな処遇改善の手立てを検討いただきたいと思います。
最低賃金は毎年見直される可能性が高く、3年に1度の報酬改定では対応が難しいのではないでしょうか。報酬改定の頻度の短縮や、
少なくとも処遇改善加算のみは毎年度検討していく仕組みが介護現場では、求められているのではないでしょうか。
今年の上半期で、介護事業者の倒産件数が過去最大となったことが民間調査会社の調査結果として公表されていますが、この最低賃金の50円増によっていっそう経営環境が厳しくなることから、
更なる倒産件数の拡大や、介護事業者の再編・M&Aの加速に繋がるのではないかと思います。
介護事業者はこれからの経営戦略・人事戦略・給与規程の見直しをしっかりと検討し、適切な対策を講じていかなければなりません。
令和2年度介護事業経営実態調査よりブティックス作成