2023年2月7日
事業運営

物価高に介護事業所はどう対応すべきか

物価高に介護事業所はどう対応すべきか

日本経済はウクライナ情勢や円安の影響で、急速に物価高が進行しています。
水道光熱費や食材料費などの高騰が、介護・障害福祉事業所や医療機関に大きな影響を及ぼしています。

特に、収益の大部分を介護報酬に依存している中小介護事業者への影響は甚大です。
物価高騰による影響は、今後好転する気配が無いため、事態が好転するのをただ待っているだけでは不十分だといえます。

中小介護事業者は各社で対策を打ち、物価高を克服する努力必要となります。

人手不足、コロナ禍そして物価高

高齢者人口が増加しているにもかかわらず、介護業界はコロナ禍前から3年毎に実施される介護報酬改定、人手不足、都市部における競争激化などプラス要因は乏しい状況でした。
そこに想定外のコロナ感染拡大による感染の対策費用、利用者のサービス控え、職員のコロナ感染、さらに物価高による運営コスト上昇も重なっています。

人手不足、コロナ禍そして物価高1 東京商工リサーチ,「コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増,2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況」より

東京商工リサーチが公表した情報iによると、2022年の「老人福祉・介護事業」倒産は介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)を記録したということです。また、2024年の介護報酬改定においても大幅なプラス改定の可能性が低く、加算が取れない中小事業者は、スケールメリットを活かせる大手事業者と比べて、厳しい状況に立たされています。
物価高対策については国も2022年9月には、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の増額・強化として、医療・介護・保育施設等に対する物価高騰対策支援をしていますが、十分ではないと考えられます。

人手不足、コロナ禍そして物価高2 帝国データバンク 「企業の価格転嫁の動向アンケート(2022年9月)」より

その証拠に2022年9月に帝国データバンクが実施した調査によると、一般企業1,649社のうち、38.9%が「あまり効果を実感していない」、34.3%が「ほとんど効果を実感していない」と回答しています。

2022年12月に開催された社会保障審議会介護保険部会では、介護人材の確保や生産性向上による制度の持続可能性の確保が求められましたが、コロナ禍や物価高で経営が悪化している小規模事業者には、対策費用を負担する余裕はなく、さらなる事業者への支援が必要とされています。
また、介護人材採用も深刻さが増しており、厚生労働省iiによると、介護職の新規求人倍率は5.35となり、対前年同月比では新規求人、有効求人、新規求職、有効求職のすべてが増加している現状です。

公的支援を利用した物価高への対応

中小介護事業者が取れる物価高への対策は、「公的支援を受ける」、「取得できる介護報酬加算取りこぼさない」、「無駄を減らす、省コスト対策」であると考えられます。もちろん、訪問系サービスであれば「サービス利用者を増やす」ことや「要介護度の高い利用者を増やす」ことも考えられます。

公的支援では、介護事業所の所在地の自治体の補助を確認します。例えば東京都では介護サービス事業所燃料費高騰緊急対策支援金、特別養護老人ホーム等物価高騰緊急対策支援金があります。
これは、介護サービス事業者が令和4年10月1日から令和5年3月31日までの間に提供した送迎サービス等に要した燃料費として申請した場合、補助額10割の支援金が支給されるものです。
訪問系サービスでは車両1台当たり月額1,200円、通所系サービスでは車両1台当たり月額2,200円の支給がされます。
一方、特別養護老人ホーム等物価高騰緊急対策支援金では、食費が1日当たり61円、光熱費が94円支給されます。しかし、こちらも今年度末までの支給となっています。

他の都道府県等でもホームページ上に掲載されていますが、多くの締め切りは2月が多いため、まだこうした公的支援の申請をしていない事業者は急いで申請されることをおすすめします。
検索の方法は、Googleなどの検索エンジンで「介護」+「物価高騰」+「支援」+「都道府県名」で見つけることができます。

無駄を減らす、省コスト対策

無駄を減らす、省コスト対策

介護事業で利益を出すためには収入を増やし、支出を抑えることが重要です。
来年の介護報酬改定を控え、コロナ禍、物価高、制度の先行きが見えない介護サービス事業者にとって、少コストに関する需要は高まっています。

介護事業が通常のビジネスと異なる点は、介護報酬によって得られる収入の単価が定められていることです。そのため、コスト抑制・削減が介護事業者の経営課題となっています。福祉医療機構の調べiiiによると、全ての介護サービス事業者の最大の経費は「人件費」となっています。

施設系サービスでは、人件費に次いで大きな経費が、「給食費」、「水道光熱費」、「業務委託費」となります。給食費や業務委託費を見直す方法には契約の見直しや委託会社の変更があり、水道光熱費を見直す方法には少コスト機器の導入などがあります。

介護サービス事業者にとって手を付けやすいものは「水道光熱費」といえるでしょう。

介護サービスにおける生産性向上

人件費の削減については、実際のところ多くの障壁があるためなかなか実現に至りませんが、当社では2つのサービスを展開しています。
一つは、「適正人員の算出確認サービス」であり、もう一つは「介護報酬加算の確認サービス」です。
一つ目の「適正人員の算出サービス」は、介護保険法令の人員基準をサービスごとに再確認し、介護職員の行っている業務内容を洗い出しし、本来業務に振り分けていく方法です。
通常、介護事業は介護資格でスキルを判断することが多いですが、介護職員の技能レベルは人によってかなり異なることがわかります。また、施設サービスの場合、入居している利用者の介護ニーズの度合いや本人・利用者の要望も絡んできます。そこで、考えられることは厚生労働省においても推進している「生産性の向上」という切り口です。

介護サービスは利用者の生活を支援するという業務の特性から永らく「生産性の向上」とは無縁の業種と考えられていました。
しかしながら、人口減少社会の到来で生産年齢の減少が予測され、介護人材の確保が困難になることから国は介護業務の「生産性向上」を推進しています。
一般的に生産性向上は、「従業員及び労働時間数あたりの付加価値額を設備投資や労働の効率化などによって向上させるもの」とされます。

一方、介護事業における生産性向上は、介護職員が介護業務以外の間接的業務に時間がとられている業務を本来業務である利用者への支援に振り分け、「介護の価値を高めること」と定義しています。
具体的な方法として介護サービスの取組に製造業のカイゼン活動を応用したり、ICT活用等による情報共有の効率化などを行っていきます。
筆者も実際に多くの介護事業所に訪問し、生産性の向上の切り口でお話をしますが、「介護職員からは一生懸命やっている」、「人手が足りなくて良いケアができていない」という意見を多く聴きます。
もちろん、介護職員の方は一生懸命、良い介護サービスを毎日提供していることは理解できます。しかし、筆者が説明の際に説明することは、「もっと良いケアをするために、業務を見直してみませんか」ということを伝えます。言い換えると、職員の皆さんは良いケアをしたいという希望を多く持っています。その良いケアができない理由がどこにあるのかを確認していくということになります。

もう一つの介護報酬加算確認サービスでは、取りこぼしの無きように現在算定している加算を確認し、取得できる加算はしっかりと算定していくというサービスです。
本来ならば、このサービスは介護事業者自身が行うことが可能なものですが、複雑化する介護報酬加算の取得を人手不足の介護事業者が行うことは大変なことであると考えています。
そうした手間のかかる業務こそ、外部にアウトソーシングするという方法は長い目で見た場合、収益化につながっていくと考えています。

脱炭素と太陽光発電の可能性

脱炭素と太陽光発電の可能性

光熱費の削減には、エネルギーを監視・管理する「電力量計」や「電気料金の最大デマンド監視機器」の設置があります。
これらは夏場など電力使用量が多いときに気づかせてくれる役割があります。

LED電球は、蛍光管とのコストの差額が大きく、従来からの施設サービス事業者への導入は普及途上といえるでしょう。
「太陽光発電」は既存施設においては費用面からハードルが高いものとされていましたが、脱炭素の流れがここにきて進捗しており、各都道府県が助成金の拡充予算を増やしています。

例えば、東京都においては東京都内に地産地消型再生可能エネルギー発電等設備又は再生可能エネルギー熱利用設備を設置する事業者に対して、当該設備の設置に係る経費の一部を助成しています。
東京都では、中小企業等には上限額1億円のうち、3分の2の助成額が示されています。つまり、1億円のうち、約6600万円が助成されるということになります。

さらに、最近では電力会社が、中小企業等への導入を図るべく、「実質無料」で太陽光パネルを設置できるプランも登場しています。当社では、現在、施設を展開している介護事業者に数社ある電力会社のうちから最安の事業者をご紹介し、助成金も含めて提案している最中です。ご関心のある方は、ご紹介いたしますのでお気軽にメール等でお問合せください。

今まで介護事業者の多くは、経費削減にはあまり注意を払ってきませんでした。
しかし、コロナ禍による経営環境の厳しさから、コスト削減を意識せざるを得ない経営者が増えています。今回お話しした内容は、行政の支援制度を活用するほか、無駄を確認し、適正化することで事業構造の見直しに取り組んでいく方法です。
加えて、ICTも取り入れながら生産性向上を図っていくことも有効だといえます。

物価高による中小介護事業者への影響は、2023年以降も続くと考えられます。
国の政策にはどこまで効果があるかわかりません。
介護事業者自身の対策によって、現状を打開していくのが望ましい姿であると私は考えています。
これを機会にぜひ御社に合った物価高への対策を考えてみてはいかがでしょうか。
当社では介護事業者様へのコンサルティングサービスとして数百か所の事業者の効果的な事例や導入支援策の提案を行っています。
お気軽にお声掛けください。

ティー・オー・エス株式会社
ライター紹介
髙山 善文
髙山 善文 氏
ティー・オー・エス株式会社 代表取締役

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