一般社団法人全国介護事業者連盟
理事長 斉藤正行
介護事業所の倒産件数が過去最多!
民間調査会社の調査結果において、令和6年の上半期(1月~6月)の介護事業者の倒産件数が81件と過去最多であると示されました。 昨年と比べて1.5倍となりました。また、そのうち約半数が訪問介護事業者であり、通所介護も増加傾向です。 加えて、大多数が職員10人未満の零細事業者です。
倒産件数が増大している最大の背景は、物価高騰とコロナ禍による影響であると考えられます。 直近の経営調査の結果においても、全サービス平均の収支差率は2.4%と前年対比マイナス0.4%となり、事業者の収益悪化が示されています。
※括弧なしは、税引前収支差率(コロナ関連補助金及び物価高騰対策関連補助金を含まない)
< >内は、税引前収支差率(コロナ関連補助金及び物価高騰対策関連補助金を含む)
( )内は、税引後収支差率(コロナ関連補助金及び物価高騰対策関連補助金を含む)
※物価高騰対策関連補助金は令和3年度決算には含まれない
厚生労働省 令和5年介護事業経営実態調査結果より
介護業界の有効求人倍率の悪化
物価高騰とコロナ禍の影響によって、利用者の獲得、職員の確保が厳しさを増す中で、経費の増加が著しい状況となり、補助金等による公的な支援では、事業者はマイナスをリカバリー出来ていません。 コロナの5類移行後は、他産業の経済が回復し、介護業界の有効求人倍率が悪化傾向にあります。
厚生労働省データより
加えて、物価高騰に対する他産業の賃上げに介護業界は遅れをとる形となっており、採用費や人件費の高騰が更なる収益の悪化を招くとともに、
人員確保の厳しさが極まっていることも、倒産件数の増大の大きな要因となっていると思います。
このような厳しい経営環境が続く中で、倒産件数が急増した契機が2つあると思います。
1つは、コロナ禍でのゼロゼロ融資(民間金融機関による実質無利子・無担保融資)の返済を迎える事業者が増えたことです。
政府による追加策での返済措置期間の実質的な延長対応が出来なかった事業者の資金繰りの悪化が背景にあると思います。
2つめに、訪問介護事業者の倒産割合が高まっている背景には、令和6年度介護報酬改定によるマイナス改定の心理的な影響があると思います。
今回の調査結果は、6月までであり、改定での直接的な収入減が影響した可能性は低いと思います。
ただ、マイナス改定の発表は年初であり、厳しい経営環境の中で辛抱して運営してきた小規模事業者が、将来に悲観して事業所の閉鎖や撤退の決断に至った可能性はあり得ると思います。
ゼロゼロ融資と報酬改定による影響が本格化するのは、これからであり、更なる倒産件数の急増が見込まれるのではないかと大変危惧しています。
新規事業者の介護参入も増加も
一方で、介護事業者の経営環境が厳しさを増していることは確かですが、倒産件数の最多については、冷静に分析すべき事情もあります。新たに介護事業を展開する事業者の増加です。
民間調査会社によるデータでは、昨年1年間に新設された介護事業者は、3203社と5年連続で前年を上回っています。
倒産件数は最多ですが、母数となる事業者の数が増えれば、件数が増えることは当然であり、件数だけを問題視するのではなく、倒産割合の考慮が重要です。
もっとも新規参入の事業者の増大は、更なる競争の激化を生み出すことにもなり、事業者にはいっそうの経営努力が求められています。
今後、益々、業界再編や、介護事業者のM&Aも加速していくことになると思います。
いずれにせよ、更なる倒産件数の増加も予想される中で、3年後の介護保険法改正・報酬改定に向けた議論が今後進められていきます。
同時に、単年度ごとでの介護事業者に対する追加支援策の検討を、とりわけ介護事業者に対する人材確保や定着に向けた対策を政府が講じることで、事業者の将来不安を払拭する必要があると思います。