介護経営者の皆様、こんにちは。2024年6月に成立した「事業性融資推進法(事業性融資の推進等に関する法律)」が、いよいよ2026年5月から施行されます。
これまで、介護事業者が銀行から大きな融資を受けようとすれば、「土地や建物を担保にする」か、「経営者個人の連帯保証(個人保証)を差し出す」のが当たり前でした。しかし、この新法の登場により、その常識が変わろうとしています。
本稿では、この新法が介護経営にどのような変化をもたらすのか、そして金融機関は今後、私たちの事業の「どこ」を見て価値を判断するのか考えてみたいと思います。
【目次】
1. そもそも「事業性融資推進法」とは何か?
一言で言えば、「不動産や個人保証に依存せず、事業そのものの価値(キャッシュフローやノウハウなどの無形資産)を評価して融資を行う仕組み」を整える法律です。この法律の柱となるのが、新たに創設される「企業価値担保権」という制度です。
企業価値担保権の画期的な点
- 「ハコモノ」から「中身」へ: 土地・建物だけでなく、スタッフのスキル、ケアの質、独自の運営ノウハウ、地域での信頼関係といった「目に見えない資産」が担保になります。
- 経営者保証からの解放: この制度を利用する場合、原則として経営者の個人保証は求められません。
- 事業継続の重視: 万が一、経営が厳しくなった際も、単に資産を競売にかけるのではなく、事業を維持したまま再生を図るための手続きが組み込まれています。
(参照)金融庁,事業性融資の推進等に関する法律 説明資料
2. 金融機関の評価の根拠となると考えられる指標は?
では、担保となる不動産がない場合、金融機関は何を基準に「この事業所には価値がある」と判断するのでしょうか。金融機関がチェックする可能性が高い指標を、整理してみました。
① ケアの質のアウトカム指標(LIFE関連)
事業性融資では「将来の収益性」が重視されます。介護報酬改定の動向を見れば明らかですが、アウトカム(結果)を出している事業所ほど報酬が手厚くなると考えられます。
- ADL維持等加算の取得状況(ADL利得): 自立支援・重度化防止への貢献が直接収益に反映。改善実績が高いほど「地域での選別優位性」と「収益の安定性」が評価される。
- 科学的介護推進体制加算(LIFE)の継続取得: データを活用してPDCAサイクルを回していることは、単なる現場の頑張りではなく、経営の「組織的な強さ」の証拠となります。
② 労働生産性と人材定着の指標
介護事業の価値の核は「人」にあります。人手不足倒産のリスクが叫ばれる中、人材の安定性は事業継続性を測る最重要項目になると考えられます。
- 介護職員1人当たりの付加価値額: 「厚生労働省の生産性向上ガイドライン」では、どれだけ効率的にサービスを提供できているか、ICT導入等による業務効率化を数値化することが推奨されています。
- 離職率および平均勤続年数: 採用コストを抑え、安定してサービスを提供できる体制は、金融機関にとって「貸し倒れリスクの低い、価値ある事業」と判断されます。
③ 財務・運営の透明性と地域連携の指標
「介護分野に係る事業分野別指針」では、財務分析の重要性が明記されています。経営者の「勘」ではなく、数字に基づいた経営ができているかが問われます。
- 収支差率(利益率)と稼働率: 介護報酬は単価が決まっているため、利益率はそのまま「コスト管理能力」の証明となります。
- 地域連携の数値(紹介元・先の件数): ケアプランデータ連携システム等の活用状況や地域ネットワーク内での立ち位置は、顧客獲得の安定性を示す「事業基盤」の強さとして評価される可能性があります。
3. 金融機関に提示する「企業価値」の構成表
事業性融資の審査では、以下の項目バランスが「企業価値」として総合的に評価される可能性があります。
| 評価の視点 | 具体的な指標(KPI) | 金融機関が着目する可能性のあるポイント |
|---|---|---|
| 収益の質 | 加算取得率(LIFE・個別機能訓練等) | 法改正に強く、高い単価を維持できるか |
| 組織の資産 | 離職率、ICT活用による残業削減時間 | 人手不足リスクが低く、効率的か |
| 事業の継続性 | 稼働率、地域連携件数、ADL改善率など | 地域から選ばれ続け、利用者が途切れないか |
4. 介護分野に係る事業分野別指針が示す「経営の強化」
筆者が着目した資料が、介護分野に係る事業分野別指針(平成二十八年厚生労働省告示第二百八十四号)です。この告示は、「介護事業の経営力向上に係る指標」について示されたものですが、この告示では、事業強化のために以下の取り組みが不可欠であると明記されています。
- 1. 財務内容の分析と活用: 単に決算書を作るだけでなく、その結果を次期経営計画にどう活かしているか。
- 2. 人事評価制度の導入: 頑張った職員が適正に評価され、モチベーションを維持できる仕組みがあるか。
これらは、事業性融資における「評価項目」のベースとなると考えられます。つまり、 この指針に沿った経営を行っていること自体が、金融機関に対する最強のアピール材料になると考えられます。
(参照)中小企業庁, 介護分野に係る事業分野別指針
5. 経営者が着手可能なアクション
2026年5月に向けて準備を始めることが、将来の有利な資金調達に直結します。
| アクション | 具体的な進め方(一例) | 目的 |
|---|---|---|
| 強みの「数値化」 | 「優しいケア」→ 離職率・平均勤続年数 「質の高いケア」→ ADL維持等加算の取得率 |
感覚的な強みを「客観的なエビデンス」へ変換する |
| ICTの「投資」化 | 記録ソフト、見守りセンサー、インカム等の導入 | 業務効率化による「生産性」と「事業価値」の向上 |
| 銀行との「対話」 | 「新法に向けて、当社の事業性をどう評価するか?」と問う | 経営の透明性をアピールし、信頼関係を先制構築する |
まとめ 介護事業の「志」が担保になる時代へ
これからの介護経営は、単なる資産の切り回しではなく、真の「価値の創造」が問われる時代へと舵を切ります。この法の施行によって、たとえ小規模であっても妥協がない「質の高いケア」、スタッフ一人ひとりが誇りを持ち、最高のパフォーマンスを発揮できる「笑顔の職場」など、これら目に見えない「現場の力」こそが、次世代における介護事業の担保となる時代が来たと筆者は強く感じています。

髙山 善文 氏

