介護経営コラム

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介護経営の“最大リスク”は運営指導──日常から整える3つのポイントで返還・停止を防ぐ

更新日:2025年12月1日
介護経営の“最大リスク”は運営指導──日常から整える3つのポイントで返還・停止を防ぐ

介護事業において、運営指導は「6年に1度の行事」と捉えられがちですが、実際には 1回の指摘が経営に深刻な影響を与えるリスクイベントです。特に、返還や停止、行政公表といった重大な結果につながる可能性があり、準備不足のまま当日を迎えると、事業そのものが揺らぐ恐れがあります。
しかし、多くの事業所では、通知が届いてから慌てて書類を作り直したり、足りない記録を埋め合わせたりと、“直前対策”に依存した運営指導対策が行われているのが現状です。
こうした対応では、抜け漏れが発生しやすく、運営指導本番での指摘を避けることは困難になります。
本来、運営指導対策とは特別なイベントに合わせた“単発の準備”ではなく、日常の運営そのものを整え、仕組みとして積み上げていくものです。誰が対応しても一定の品質が保たれ、職員全体が基準を理解している状態がつくられていれば、運営指導は決して恐れる対象ではなくなります。
本記事ではまず、「なぜ運営指導が介護経営における最大リスクなのか」を整理し、経営者として押さえておくべき視点を明確にします。
そのうえで後半では、よくある指摘と改善ポイントを、現場に落とし込みやすい形で解説していきます。

第1章 なぜ運営指導は“介護経営の最大リスク”なのか

運営指導が介護経営にとって最大のリスクとされる理由は、ひと言で言えば 「影響範囲が広すぎるから」 です。
そのインパクトは、単なる書類不備の指摘にとどまらず、経営の根幹部分にまで及びます。
まず、もっとも大きいのが 返還による財務リスク です。
処遇改善加算、特定事業所加算、人員基準、記録管理など運営指導で見られる項目は、いずれも介護報酬の根幹に関わる部分であり、指摘されれば返還額は数十万円では済みません。返還規模が数百万円から時には数千万円に及ぶケースもあるため、中小規模の事業所にとってはキャッシュフローが一気に崩れる致命的な打撃となります。
さらに、運営停止・指定取消といった行政処分の可能性も無視できません。
これらの措置は単に懲罰としての意味を持つだけではなく、利用者の生活、職員の雇用、地域の介護サービス提供体制にまで影響を及ぼす重大なものです。
なかでも、指定取消は「事業の終わり」を意味します。
どれほど真面目に運営していても、指摘の蓄積や対応の遅れがあると起こり得るリスクであることが経営者にとって悩ましい点です。
そして、数字では測れないリスクとして大きいのが 信用の低下 です。
運営指導の指摘内容によっては、自治体HPで公表される場合があります。
行政公表は、利用者・家族・ケアマネジャー・地域の医療機関など、あらゆる関係者の信頼に影響し、新規利用者の獲得、採用活動、広報活動すべてに悪影響を及ぼします。
この信用の低下は短期的なものではなく、長く尾を引くため、経営ダメージとしては返還以上に深刻になる場合もあります。
しかし、ここで重要なのは これらのリスクの多くが、特別な不正や重大違反ではなく“日常の小さなズレの積み重ね”から生じているという事実です。
つまり、運営指導は“突然やってくるトラブル”ではなく、普段の運営体制の弱点がそのまま表面化する場だと言えます。
また、意外と見落とされがちですが、運営指導の結果は外部の評価にも影響します。
内部統制が整い、安定した運営ができている事業所は、金融機関や関連機関からの信頼が高まりやすく、将来的に事業拡大を検討する際や、M&A・事業承継などの場面でも評価されやすくなります。
過度に強調する必要はありませんが、安定した運営=企業価値の向上につながるという視点は、経営者として持っておくべき重要な観点です。
このように、運営指導は返還・停止・信用・外部評価と、経営のあらゆる側面に影響を与えるため、介護経営における“最大リスク”といえるのです。

第2章 運営指導でつまずく3つの指摘ポイントと改善ポイント

運営指導で返還や指摘につながる原因は複雑なように見えますが、実は多くの事業所に共通する“3つの指摘ポイント”が存在します。いずれも悪意のある違反ではなく、日々の運営のなかで自然に生まれてしまう小さなズレです。大きな問題に見えて、実はとてもシンプル。だからこそ、日常の整備で確実に防ぐことができます。


指摘ポイント①|書類の整合性が取れていない

運営指導で最も多いのが「書類のつながりが切れている」状態です。
必要な書類が揃っていても、内容が連動していなければ指摘の対象になります。

  1. よくある指摘例:
  2. 重説と運営規程の内容が一致していない
  3. ケアプランと訪問介護計画書の記載がズレている
  4. ケアプラン未着時に暫定計画書を作成せずケアを実施した

これらは書類作成担当者が変わる、更新ルールが曖昧、情報共有が不足しているなど、“運用のバラつき”によって生まれます。


指摘ポイント②|委員会や研修の最低基準を満たしていない

委員会の開催頻度や研修の実施基準をきちんと理解しないまま運用してしまうと、基準未達となって指摘につながります。

  1. よくある指摘例:
  2. 委員会や研修の開催頻度が最低基準を満たしていない
  3. 研修参加者名が記録されていない
  4. そもそも議事録がない、または必要項目が欠けている

これは“やっていない”のではなく、基準を理解しないまま運用していることが原因です。


指摘ポイント③|新しい制度・ルールへの対応が追いついていない

最近の改正だけを見ても、介護事業所が対応すべきものは複数あります。
知らないうちに義務化されているケースもあり、ここを見落とすと確実に指摘につながります。

  1. よくある指摘例:
  2. 熱中症ガイドライン(2025年6月義務化)に未対応
  3. BCP(自然災害・感染症)の未策定
  4. 財務諸表公表制度への未対応

制度改正は早く、対応しないまま時間だけが過ぎると“違反扱い”になるリスクがあります。

指摘ポイントを踏まえたうえで、一番大切なのは 改善ポイントを“日常の運営フローに落とし込む” ことです。
直前に慌てて対応しても、根本的な改善にはつながりません。
ここでは、3つの指摘ポイントすべてに共通する「現実的で効果の高い改善策」を解説します。

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改善ポイント①|様式や運用ルールを統一し、誰が作っても同じ品質にする

書類の整合性が崩れる最大の理由は、人によって作り方が違うことです。
様式が統一されていない、更新のタイミングが曖昧、反映ルールが共有されていない──こうした状態では整合性が取れるはずがありません。
だからこそ、まず取り組むべきは 「書類づくりのルールを一本化する」こと。

  1. よくある指摘例:
  2. 様式を全スタッフ共通にする
  3. 記載項目を明確化
  4. 対応のフローを決める

これらは一度整えれば、誰が作成しても同じ品質に近づきます。
整合性問題の大半は“仕組みの統一”で解消できます。


改善ポイント②|研修で制度理解を深め、現場の判断を安定させる

委員会や研修の基準を満たせないのは、基準そのものを現場の職員が十分理解していないことが大きな理由です。
「どの委員会を、年に何回やれば良いのか」
「議事録にはどこまで書く必要があるのか」
これを“なんとなく”で運用すると、必ずズレが生まれます。だからこそ、研修を通じて基準を正しく理解し、判断を共通化することが重要です。
研修といっても難しいものではありません。管理者だけが知っていても意味がないため、スタッフ全員が“なぜ必要なのか”まで理解できる状態を目指します。
理解が深まると、現場判断が安定し、運営の再現性も高まります。


改善ポイント③|アプリ・外部監査を活用して“抜け漏れゼロ”を実現する

制度改正、委員会頻度、書類整合性──これらすべてを人力で管理するのはかなり困難です。
だからこそ、外部監査や DX(アプリ) の活用が非常に効果的です。
特に運営指導対策や事務に予算を割けない小規模の事業所ほど、外部の仕組みを取り入れるメリットは大きく、「気づいたら違反していた」をゼロにする最も現実的な方法です。

運営指導で指摘が生まれる理由は複雑ではなく、書類、基準、制度──どれも“日常の整備”で改善できます。
この3つが日常の運営に組み込まれていれば、運営指導はもう「直前に焦るイベント」ではなく自然とクリアできる“当たり前の業務”となります。

まとめ

運営指導への備えは、「特別な準備をすること」だと思われがちですが、実際にはもっとシンプルで、本質的です。対策のうまさではなく、日常の運営そのものがどれだけ“再現性のある仕組み”として成立しているかが、運営指導の結果を左右します。
特に、運営指導で安定した結果を出している事業所には、明確な共通点があります。
それは、「誰が見ても同じように理解でき、誰が対応しても一定の質で運用できる環境が整っている」ということです。
業務が属人化しておらず、個人の力量に依存しない状態になっているため、書類の更新漏れや委員会の開催基準違反といった“日常のズレ”が生まれにくいのです。
一方、運営指導で指摘が続く事業所では、スタッフ間の意識や理解の差が大きく、業務フローが人によって変わってしまう傾向があります。
管理者だけが基準を理解していても、現場で同じ認識が共有されていなければ、いずれズレが生じます。だからこそ、運営指導対策は“管理者が対応するもの”ではなく、スタッフ全員でつくるべき“組織の習慣”なのです。
日常運営に取り入れるための第一歩は、まず自社の現状を整理することです。
書類作成、委員会や研修の運営、制度改正への対応など、一つひとつの業務が“今どう実施されているのか”を棚卸しすると、どこが弱点なのか、どこが属人化しているのかが一気に明確になります。このプロセスそのものが、スタッフ全員の意識を揃えるきっかけにもなり、一石二鳥になります。
次に、基準や手順を「誰が読んでもわかる・誰がやっても同じ結果になる」状態へと整えていきます。これは形式だけを整える作業ではなく、“なぜ必要なのか”を理解しながら、共通の判断軸をつくることが重要です。理解が深まるほど、現場判断が安定し、自然とズレが減っていきます。
最後に、日常運営のなかに 「仕組みとしての対策」 を取り入れることで、改善は継続できます。様式や運用ルールの統一、研修による専門性の向上、アプリや外部監査の活用などは、いずれも“意識だけに頼らずに品質を維持できる方法”です。仕組みを使うことで、職員の負担を増やすことなく、抜け漏れを防ぎ、日常の運営を強くすることができます。
運営指導は直前に慌てて帳尻を合わせるものではありません。
日々の運営が整っていれば、自然と指摘は減り、結果的に「運営指導に強い組織」へと育っていきます。
その積み重ねこそが、事業の質を高め、スタッフが安心して働ける環境をつくり、ひいては未来の成長にもつながっていきます。

ライター紹介
片山海斗
片山 海斗 氏
Professional Care International株式会社 代表取締役

史上最年少で介護事業所を経営し、介護の学校やWeb会社など複数のスタートアップに参画。グラフィックデザイナーやSEとしての経験もあり、データサイエンス、DX、AI、デジタルマーケティングに精通。また、介護保険や総合⽀援法などの各法令に関する⾒識を持つ。

URL:https://pcig.jp/
お問合せはこちらから:https://pcig.jp/contact/


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