 
            【目次】
1.高市政権の誕生と社会保障政策の転換
令和7年10月21日に臨時国会が開かれ、自由民主党の高市早苗総裁が内閣総理大臣に選出され、日本の憲政史上初めての女性総理大臣が誕生しました。その高市総理の誕生の過程において、公明党が26年間続けてきた協力関係を終え、連立政権から離脱することとなりました。その後、様々な政局の駆け引きを経て、日本維新の会との連立政権が誕生することとなりました。その高市政権の誕生によって、社会保障政策は大きな転換点を迎えようとしています。その影響と今後の制度改革のゆくえを論考していきたいと思います。
              総理に選出され、その後速やかな組閣が行われ、大臣、副大臣、政務官などの閣僚人事が決定しました。そして、高市総理は10月24日の衆議院本会議で所信表明演説を行い、その中で、医療・介護現場への支援の早期実現を約束しました。
              高市政権の支持率は報道各社によって異なりますが、いずれも高水準での発進となっています。従来の政権とは異なり積極財政を標ぼうしていることからも、介護業界においても大きな期待が寄せられています。臨時国会において補正予算によるいち早い支援策の構築と、次期診療報酬改定での大きな引き上げと、来年4月の期中での介護報酬改定による処遇改善加算の見直しが期待されます。なお、その際には、従来の政策とは異なる新たな施策が実行されるのか。それともあくまで従来の施策を踏襲し、その金額だけが大きくなるだけなのか。業界関係者の多くは前者の新しい施策を期待しています。
            
2.積極財政と財政規律のバランスによる今後の社会保障制度のゆくえ
              積極財政を推進する上において、その財源の確保をどのように進めていくかは大きな課題となります。所信表明演説においても、「税と社会保障の一体改革」について同時に触れられており、一定の社会保障費の適正化に向けた改革とセットでの財政出動となることは間違いありません。特に、連立を組むこととなった日本維新の会は、社会保障費の抑制を重要なミッションとしていることからも、どの部分で折り合いをつけていくことになるかが最大の焦点となります。すでに、議論の声があがってきていることでは、例えば医療費の3割負担の対象拡大についてであります。そして、この課題は、同時に介護保険の2割負担の対象拡大の議論にもつながる内容であり、年末までには概ね議論が決着することになるので、そのゆくえに注目したいと思います。
              同様に、高市政権の誕生に大きな貢献をし、影響力が高まっていると言われている麻生太郎元総理は財務省の最大の後ろ盾であり、財政規律派でありますから、その影響力がどの程度となるかも危惧されます。いずれにせよ単なる財政出動の一本やりではなく、バランスが求めあれることになると思います。
            
 
            3.年末に向けて介護業界が注目すべきポイント
              年末までの約2か月間がこれからの大きな山場の1つであり、補正予算による物価高対策と介護従事者への処遇改善と、介護保険制度改革のゆくえに大いに注目していきたいと思います。加えて、来年春となる次期診療報酬改定の改定率がどのような水準となるかが、次期介護報酬改定にも大きな影響を及ぼすこととなり、積極財政による政権運営が信任を得続けて、支持率高く政権が維持できるのかどうかは、まだまだ不透明であり、次期介護報酬改定については、今後の政局を見定めていく必要があります。
              いずれにせよ、今後の介護業界にとっては現在、極めて重要なタイミングであり、私自身も代表を務める全国介護事業者連盟を通じて、新政権に対しての積極的なロビー活動を引き続き進めてまいります。
            
4.介護事業者に求められる戦略的対応と現場の備え
              高市政権の誕生により、介護業界は政策的な追い風を受ける可能性がある一方で、制度改革や財政調整の影響を受けやすい不安定な局面にも直面しています。こうした中で、介護事業者には単なる制度の受け手ではなく、変化を見越した戦略的な対応力が求められています。
              たとえば、処遇改善加算の見直しや自己負担割合の拡大といった制度変更に備え、収益構造の見直しや人材定着策の強化が急務です。また、地域包括ケアの中核としての役割を果たすためには、地域連携の強化やICT活用による業務効率化も重要なテーマとなります。
              さらに、政策提言や制度設計に現場の声を反映させるためには、業界団体や地域ネットワークを通じた情報発信も不可欠です。新政権の方向性を見極めつつ、変化をチャンスと捉え、柔軟かつ前向きに対応していくことが、これからの介護事業者に求められる姿勢といえるでしょう。
            

 斉藤 正行 氏
斉藤 正行 氏 
                    
