介護経営コラム

Column

2027年介護保険制度改革と介護職員の処遇改善のゆくえ

斉藤 正行 氏
更新日:2025年9月5日
2027年介護保険制度改革と介護職員の処遇改善のゆくえ

1.第27回参議院議員選挙を踏まえた介護業界への影響

令和7年7月20日に第27回参議院議員選挙の投開票が行われました。私自身も介護業界の代表として自民党比例代表に立候補し戦ってまいりましたが、力及ばずの残念な結果となりました。この場を借りてご支援賜った皆様には改めて謝意を表します。介護業界の最大規模の事業者団体の代表として満足のいく結果とならなかったことで、今後の制度改革において介護業界にとっては厳しい流れも予測されます。ただし、現在の長引く物価高が続く状況の中で、今回の選挙を経て、与党は過半数をわる状況となり、政局はいっそう混迷を深めることとなり、積極財政を標ぼうする野党の政策にも一定耳を傾けることも予測されることから、必ずしも厳しい制度改革や報酬改定となるわけではないと期待したいと思います。いずれにせよ、今回の選挙を踏まえて政策決定のプロセスは与野党を巻き込んだ形となるので、これまで以上に今後の見通しは不明瞭になってまいります。

2.2027年介護保険制度改正・介護報酬改定のゆくえ

そのような状況を踏まえた上で、今後の制度改革の動向を整理してみたいと思います。まず、今後の制度改革において一番の指針となるのは、令和7年7月25日に示された「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するまとめ」です。全国一律の介護保険制度の見直し方針などにも言及されており、このまとめを論点とした議論が今後本格化していくこととなります。
まずは、2025年末までに介護保険部会において、2027年介護保険法改正に向けた取りまとめが行われます。特に給付と負担の問題における「利用者の2割負担の対象拡大」が最大の論点になります。合わせて「老健等における多床室の室料負担について」「ケアプランの利用者負担設定について」「軽度者改革について」なども議論されることとなります。ただし、物価高が続く状況の中、事業者や利用者にとって厳しい議論にはならないのではないかと期待したいところであります。
そして、年が明けると2027年介護報酬改定に向けた議論が本格化していきますが、まだ現時点では予測は難しい段階です。しかしながら、先行して2026年診療報酬改定が年明けには単位数含めて固まってきます。その中で、集合住宅における訪問看護の見直しは厳しい改定となる可能性を秘めており、その流れが、次期介護報酬改定での集合住宅における訪問介護の減算にも影響が生じると思います。集合住宅は、合わせて4月から設置されている「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」での議論の整理がすでに示されており、その内容にも注目が必要です。

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3.最低賃金の大幅引き上げを受けた今後の処遇改善のゆくえ

加えて、今後の介護業界にとってもう1つの重要テーマとなる介護従事者への処遇改善のゆくえについても論考したいと思います。とりわけ直近では、厚生労働省による審議会において、今年度の最低賃金の目安を全国平均で63円引き上げて1118円とする方針が示されており、介護現場にどのような影響が生じるのかについても合わせて確認したいと思います。
現政権は最低賃金の大幅増を政府方針としてすでに示しており、長引く物価高の中、最低賃金を大幅に引き上げる方針には妥当性があると思います。介護職員にとっては、他産業の賃上げに遅れが生じないように、更なる処遇改善が期待されることとなり、基本的には歓迎されます。
一方で、介護事業者にとっては深刻な事態ともなりかねません。人件費の増加による経営への影響は甚大であり、業界に大きな衝撃を与えています。無資格・未経験等の人材雇用に際して最低賃金をベースに給与規程を整備している事業者も多く、最低賃金が上がればベースとなる給与額を引き上げる必要があります。しかも、現状、最低賃金で働いている職員の給与だけを引き上げる対応で済むわけでは必ずしもありません。規程の在り方次第ですが、資格や経験等に基づく給与規程が設けられている場合、最低ベースの金額が大幅に上昇すれば、その他の職員の給与と逆転現象が生じかねず、結果的にその他職員の処遇も段階的に引き上げる必要が生じます。令和6年度介護報酬改定に伴う処遇改善加算の上増し分は、すでに活用して賃上げを行っている事業者が大半であり、そもそも、この処遇改善加算は2年分として配布する措置となっており、今後の最低賃金の大幅な引き上げへの対応原資には考え得難い状況にあります。事業者は今回の大幅な最低賃金の引き上げへの追加的な対応が必要となりますが、政府による新たな公的措置がなければ、大きな人件費増へと繋がり、経営環境がいっそう厳しくなることが想定されます。今年の上半期は、介護事業者の倒産件数が過去最大との民間調査会社のデータも示されており、最低賃金の大幅引き上げによって、今後、更なる倒産件数の増加も見込まれることとなり、大変危惧をいたします。

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今年の6月には「骨府方針2025」において介護・福祉への処遇改善を行う方針が示されていますが、細部の決定は2025年末との方針が示されており、今回の最低賃金の引き上げは10月からの対応ですから、公的な支援策は基本的には間に合わないことになります。
いち早く事業者に対する支援策を講じなければ、中小零細の介護・福祉事業者にとっては大変厳しい状況が予測されます。また、今後も最低賃金は毎年見直されていくこととなりますので、3年に1度の報酬改定では対応は難しいのではないでしょうか。報酬改定の頻度の短縮の検討、少なくとも処遇改善加算のみは毎年度検討していく仕組みが介護現場には、求められています。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
立命館大学を卒業した後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。飲食業のコンサルティング、事業再生などを手がける。 その後メディカル・ケア・サービス株式会社に入社し、「愛の家」ブランドでグループホームを全国に展開し、取締役運営事業本部長に就任。 2010年に、株式会社日本介護福祉グループへ入社。「茶話本舗」ブランドで小規模デイサービスをフランチャイズ展開し、取締役副社長に就任。 2013年に、株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。 一般社団法人日本介護ベンチャー協会の代表理事、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を運営する一般社団法人日本介護協会副理事長、 その他にも多くの介護関連企業・団体の役員・顧問を務めている。


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