2025年7月31日
人材

「求人が来ない」を変える!
SNSとショート動画で変わる採用のかたち

「求人が来ない」を変える!SNSとショート動画で変わる採用のかたち

1. なぜ「採用難」が続くのか?──求人の出し方にズレがあると疑ってみる

「ハローワークに求人を出しても全く応募が来ない」「やっと来ても定着しない」──介護事業者の多くが、そんな悩みを抱えています。筆者は、これは単なる人手不足ではなく、求人の出し方そのものが時代とズレていると考えるようになりました。
2025年5月20日付の日本経済新聞によれば、厚労省の統計でハローワーク経由の採用成功率はわずか11.6%と過去最低を記録。求人の9割近くが空振りしている現状です(※1963年の統計開始以来最低水準)。
▼主な背景は以下の通りです
・民間求人サービスの急速な拡大(Indeed、求人エージェントなど)
・スマートフォン主導の就活スタイルの定着
・求人票の硬直化(写真・動画の掲載不可、自由な表現が困難)
さらに、ハローワーク経由の就職は13.9%にとどまり、民間経由(41.9%)や縁故(22.6%)よりも低い水準です。

2. 若者が惹かれる「ショート動画」という新しい採用ツール

今、多くの介護施設が注目しているのが「SNS × ショート動画」を活用した採用戦略です。
これは単なる流行ではなく、若年層、特にZ世代の行動原理に基づいた戦略的な手法といえます。

▶Z世代とは?
Z世代(ゼットせだい)とは、一般に1996年〜2012年頃に生まれた世代を指し、現在の10代後半〜20代半ばを中心とする層です。物心ついた頃からスマートフォンとSNSが身近にあり、「検索」より「流れてくる情報」で物事を判断する世代といわれます。

▶Z世代は「動画で職場を判断する」
東京都市大学の鈴木悠介氏・石井祐介氏の研究(2023年)によると、Z世代は静的な文章情報よりも「動的なコンテンツ=動画や音声つきの情報」から職場やサービスを評価する傾向があるといいます。
「Z世代は動画を通じて“雰囲気”“空気感”を把握し、自分に合うかどうかを判断している」
(鈴木・石井, 2023, p.51)
職場の人間関係やリアルな空気感など、求人票では伝えられない情報こそ、ショート動画の得意分野なのです。

▶SNS(TikTok)は「意思決定のきっかけ」になるメディア
この論文ではさらに、TikTokの特性として「娯楽と情報の融合」があると指摘されています。
何気なく見ていた動画が、職場に対する興味や好意を生み、「ここで働いてみようかな」という意思決定につながるのです。これは、“まだ求職者ではない層”にも届く可能性があるという点で、従来の採用手法にはない強みです。

イメージ画像

3. 世代別に異なる「職業観」と動画の有効性

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による調査(『令和5年度 職業能力開発ニーズ調査』)では、年代によって仕事に対する価値観や求める能力が異なることが示されています。
以下に、世代別の特徴を要約します

年代 重視される職業能力 特徴的な価値観
20代コミュニケーション力・共感性人間関係・空気感の良さを重視
30〜40代問題解決力・柔軟性自身の成長やスキルアップを意識
50代以上忍耐力・継続力・責任感組織との安定した関係性を重視

(出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構『令和5年度職業能力開発ニーズ調査(概要)』)

つまり、Z世代を含む20代は、「人との相性」や「働きやすさ」への共感を重視していることがわかります。このニーズに応えるには、リアルな職場の雰囲気を視覚と感情で伝えるショート動画が非常に相性が良いのです。

4.採用の未来は「見せ方」で変わる

求人票では届かない、「感情」を動かす発信へ
介護職の本質は、身体的ケアだけでなく、人の感情に寄り添い、気遣い、信頼関係を築くことが求められる「感情労働」と言われます。利用者との対話や職員同士の連携といった日常のやりとりには、思いやり・忍耐・柔軟な心配りといった高度な感情スキルが求められます。こうした“目に見えない職業価値”こそ、従来の求人票や文字だけの広告ではなかなか伝わりません。
Z世代をはじめとする若年層は、仕事に対して「共感」や「人とのつながり」を重視する傾向が強く、だからこそ動画による発信が有効と考えられるのです。
たとえば、働くスタッフの声、表情、ちょっとしたミスや笑い合い──こうした映像は、「この仕事って、人と人の温かいつながりなんだ!」と視聴者に直感的に伝える力を持っています。
介護職の感情的な魅力こそが、動画でこそ伝わる要素と筆者は思うのです。
実際に、筆者が支援している介護事業者でも、SNSを活用して介護現場の日常を動画で発信したところ、従来の求人ではなかなか採用に至らなかった看護職が、その動画をきっかけに応募し、採用に結びついた事例がありました。求人サイトや紙媒体では接点のなかった層に対し、動画という“共感の装置”がしっかり届いた好例といえるでしょう。
Z世代にとって、職場を選ぶ基準は「給与額」や「福利厚生」だけではありません。
「自分らしく働けるか」「人間関係はどうか」「安心して成長できそうか」といった感覚的な価値が意思決定に大きく影響しています。
つまり、これからの介護事業者の採用戦略に必要なのは、「情報」ではなく「感情」に訴える設計です。動画による発信は、そうした感情の動きに直接届く手段であり、介護業界がこれから採用を変えるための、最も有効な「見せ方」と考えられるのです。

【参考文献】
鈴木悠介・石井祐介(2023)『Z世代におけるTikTokを用いた情報収集行動の研究』
《情報メディア研究》第22号,東京都市大学メディア情報学部,pp.47-54


独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(2024)
『令和5年度 職業能力開発ニーズ調査(概要版)』

ライター紹介
髙山善文
髙山 善文(たかやま よしふみ)氏
ティー・オー・エス株式会社 代表取締役
大正大学 人間学部社会福祉学科 非常勤講師

30年以上にわたり介護業界の最前線で歩んできた、 “現場派”コンサルタントです。制度・経営・ICT導入・外国人材支援から海外展開まで幅広いテーマに携わりながら、いつも「現場の声」に耳を傾けてきました。介護支援専門員・防災士・福祉サービス第三者評価者としても活動し、「難しいことをわかりやすく」「介護保険だけに頼らないビジネスを探る」姿勢で執筆や講演を続けています。幅広いネットワークを基盤にした情報収集力にも定評があり、業界の最新動向をタイムリーに発信できる点が強みです。著書には『図解即戦力 介護ビジネス業界のしくみと仕事』(技術評論社)、『介護の現場と業界のしくみ』(ナツメ社)などがあります。介護周辺ビジネスに興味のある方、新しい取り組みを模索中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。

【問い合わせ先】
https://www.jtos.co.jp/contact/


無料簡易査定で会社がいくらで売れるのか確認できます
今すぐ売却相談をしたい方はこちら