「財務省による介護事業者への提言」
一般社団法人全国介護事業者連盟
理事長 斉藤正行

令和7年4月23日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会(財政審) では社会保障について厳しい意見提言がいくつも行われました。今回はその内容について整理してお伝えするとともに論考したいと思います
財務省は財政審において、毎年春と年末に2度、社会保障をテーマに意見提言しています。今回の提言内容も基本的には、従来から提言されてきた内容をベースに、一部新しい提言が盛り込まれています。
まず、従来から提言されてきた内容の中から注目すべき提言は、これから介護保険部会において議論が本格化することとなる2027年介護保険法改正の論点に関するテーマについてです。例えば、「利用者の2割負担の対象拡大」や「ケアプランの自己負担の導入」「軽度者改革」「老健・介護医療院に対する多床室の室料負担の見直し」について、年末の介護保険部会での報告書の取りまとめに向けた今後の議論に注目したいと思います。
加えて、今回も引き続き、集合住宅の過剰サービスの是正を求める提言がいくつも盛り込まれています。集合住宅における居宅療養管理指導に対する適正化の提言とともに、新たに、ケアマネジャーに対する適切なケアマネジメントを厳格化する提言と、ホスピス型の有料老人ホームを中心とする診療報酬における訪問看護への集合住宅減算の更なる強化などが提言されています。
今後の報酬改定におけるマイナス改定での最大の注目は集合住宅への対応となることが予測されます。
そして、今回新たに追加された提言の中で、最も物議をかもしているのが、介護従事者に対する処遇改善への対応です。
具体的な提言には「処遇改善のみにより新たな人手を求めるのではなく…事業者が利用者・職員に選ばれていくことが重要」「職場環境の整備や生産性向上等に取り組むことで、賃上げとともに人材の定着を推し進めるべき。更なる措置については、一律の対応ではなく、事業者の経営状況等の実態把握を行った上で、介護事業の質の向上に繋がるような適切な在り方を検討すべき」とされています。
財政規律を守ることは必要であると思いますが、しかしながら、この物価高が長引き、他産業の賃上げが積極的に行われる中で、介護従事者に対する大幅な処遇改善を政府が万一にも行わないとなれば、介護現場の崩壊へと繋がりかねません。2023年度には調査来初めて介護職員の人数がマイナスとなるなど、介護現場の人材不足は極まっています。人材紹介会社への手数料をはじめとして介護事業者の採用広告費の金額が増え続けていることが介護事業者の倒産件数の増大の一因でもあります。

厚生労働省:別紙 介護職員数の推移
事業者の相違工夫も求められるべきと思いますし、専門性に応じた引上げ対応が必要であることも同意できますが、しかしながら、根本的な人手不足の問題、そこから生じる質の低下と、事業者の経営環境の急速な悪化を解決するためには、一律的な介護従事者の処遇の大幅な引き上げが不可欠であります。事業者が質を高めて職員に選ばれるための相違工夫は必要ですが、同時に事業者が人材を選べる環境がなければ質は絶対に高まりません。
現状の事業者は採用のハードルを下げに下げざるを得ない状況となっており、それが質の低下へと繋がっていることは現場の誰もが実感値を持っているところです。
今後の介護従事者に対する処遇改善がどのように議論が進行していくのかは大注目であり、私は大幅な処遇改善の引き上げに向けた活動に全力を尽くしてまいります。そして、この時期に開催される財政審の提言内容は、今年の「骨太方針」の中にどのように記述されることへと繋がるかが最大の焦点の1つでもあり、骨太方針2025の中身に大いに注目していきたいと思います。
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