2025年5月30日
事業運営
2025年度における介護補助金の制度的転換~テクノロジー導入と共同化支援の新潮流~

2025年度における介護補助金の制度的転換
~テクノロジー導入と共同化支援の新潮流~

はじめに:変容する補助制度の役割

2025年度(令和7年度)の介護分野における助成制度は、かつての人件費補填型から脱却し、経営の構造改革とサービスの質向上を促す戦略的支援へと進化した。特に注目すべきは、ICT・介護ロボットなどのテクノロジー導入支援と、地域における事業者間の共同化支援に対する助成制度である。これらの政策は、現場の人手不足や過重労働といった構造的課題に対し、単なる金銭的支援ではなく、業務の革新と事業基盤の再構築を促すものである。本稿では、それぞれの制度内容と狙い、実務的対応のポイントを整理し、介護事業者がとるべき戦略的行動を提示する。

ICT・介護ロボット導入支援事業の再編

2025年度より新設された「介護テクノロジー導入支援事業」は、従来のICT補助金・IT補助金を統合・再編したものであり、生産性向上を核心に据えた制度設計がなされている。本補助金では、紙ベースの業務を排し、完全なペーパーレス・クラウド型の業務運用を目指す機器の導入が補助対象となる。対象機器は、厚生労働省の指定する「カタログ」に準拠する必要があり、例えば介護記録ソフトやインカム、タブレット、見守りセンサー等が含まれている。単品導入ではなく、複数機器の連携使用、すなわち「パッケージ導入」を前提とすることで、業務の可視化と一体的改善が期待されている。

補助額は、ICT機器で最大250万円、介護ロボットのパッケージ導入で最大1000万円とされており、補助率は外部専門家による業務改善支援を受けた場合4分の3、それ以外は2分の1となる。これは従来のICT補助金とIT補助金における区分を引き継いだ形である。加えて、専門家による業務分析や改善支援に対しては、最大45万円までのコンサル費用も補助対象とされ、技術導入の「前提としての課題抽出と設計」が明確に制度化された点が画期的である。

生産性向上委員会の義務化と補助要件との連動

このテクノロジー導入支援においては、施設系サービスを中心に「生産性向上委員会」の設置が強く求められている。 委員会は、現場職員を含めた形で構成され、業務上の課題を網羅的に抽出し、それに対する解決策を検討する機能を担う。 これにより、導入するICT機器や介護ロボットが、現場にとって真に効果を発揮するかどうかの精査が可能となり、単なる機器導入に終始する事態を防ぐ。

生産性向上委員会は、2024年度の介護報酬改定においても施設系サービスでは3年の経過措置を経て義務化されることとなっており、補助金との制度的整合性が図られている。今後、加算制度や報酬体系との連動がさらに強化されることも予想される中で、この委員会の設置と運用は、単なる補助金申請のための形式ではなく、中長期的な経営戦略に直結する要素として認識すべきである。

在宅系への要件強化~ケアプランデータ連携システムの義務化

在宅系サービス、とりわけ訪問介護や居宅介護支援事業所にとって注視すべき要件が、「ケアプランデータ連携システム」の導入である。本システムは、サービス提供事業所とケアマネジャー間でリアルタイムなデータ共有を可能とするものであり、2025年度より補助金の交付条件として明記された。これにより、ICT補助金の申請に際しては、データ連携相手(担当ケアマネ)が同システムを導入していなければ、補助金対象外となる可能性があるため、事前の調整が不可欠となる。

また、2025年6月から1年間に限り、すべての事業所に対して年間利用料が無料となるキャンペーンが展開される。この機会を逃さずに活用し、制度要件を満たす環境整備を進めることが急務である。

フリーパスキャンペーン


出典:ケアプランデータ連携システムヘルプデスクサポートサイト

訪問介護事業者への直接支援~体制確保と経営改善の両輪

近年、訪問介護事業者の倒産・廃業が急増していることを受け、2025年度には「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」が新設された。本制度は、人材確保やOJT支援、経営改善を目的とした多面的支援を特徴とする。具体的には、経験の浅いホームヘルパーへの同行支援やOJT経費の補助、登録ヘルパーの常勤化促進に関する支援、またホームページ・広報物の作成費用の補助など、経営基盤の再構築を図る内容が盛り込まれている。

さらに、特定事業所加算の取得支援や外部コンサルタントの導入に要する経費も対象とされ、加算制度の活用を通じた持続的収益構造の確立を後押しする。この支援は都道府県ごとの裁量で運用され、例えば栃木県では5月20日を締切とした補助金申請が開始され、埼玉県や東京都でも各地域独自の制度が展開されつつある。 補助対象経費や手続きの詳細は自治体によって大きく異なるため、事業者は各都道府県の情報を能動的に把握し、対応する必要がある。

共同化支援と地域連携の再構築

介護業界の構造改革としてもう一つ重要なのが、複数法人による共同化・大規模化の支援である。今回の制度では、法人格を必要としない「事業者グループ」単位での申請が可能となり、地域における柔軟な連携体制の構築が進められている。例えば、共同送迎の実施、合同研修、給与計算や請求事務の共同アウトソーシング、人材の一時的な出向・派遣など、多様な形態の連携が支援対象として認められている。これらの課題を克服し、質の高い介護サービスを持続的に提供していくためには、国、自治体、事業者、そして国民一人ひとりがそれぞれの役割を理解し、連携していくことが不可欠である。テクノロジーの活用や多様な主体の参画を促進し、利用者のニーズに寄り添った柔軟で効率的な制度へと改革を進めていくことが、今後の日本の介護保険制度に求められる重要な使命であると言える。

これにより、特に単独での人材確保が困難な小規模訪問介護事業所にとっては、地域グループ内でのリソース共有や協業が現実的な選択肢となり得る。 補助額としては、1グループ最大1200万円、1法人120万円、訪問介護事業所には150万円の支援が設定されており、専門家の支援費用も含まれる。このような共同化モデルは、単なる経費節減にとどまらず、事業継続性の確保と将来的な事業統合の布石ともなり得る。

おわりに:補助金活用を経営戦略の一環として捉える

以上のように、2025年度の介護関連補助制度は、補助金を通じて事業所の「業務改革」「人材戦略」「地域連携」を同時に推進する、極めて戦略的な政策である。従来のように「出たから申請する」スタイルでは、補助金の要件や実務対応の複雑性に対応しきれない恐れがある。 各制度の本質を見極め、現場の課題解決と制度設計を照合しながら、専門家と連携した戦略的導入を図ることが求められる。

制度の背景にある国の政策意図を正確に読み解き、自法人に適した制度を的確に選択・申請することが、激動する介護業界における持続可能な経営の鍵となるのである。

総合対策


出典:介護保険最新情報Vol.1334(介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策について)

ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表。 一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。 一般社団法人介護経営研究会 専務理事。 一般社団法人介護事業援護会理事。 C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。