理事長 斉藤正行
令和6年1月22日に開催された介護給付費分科会において、
令和6年度介護報酬改定における各サービス・加算の単位数、見直し項目の全てが示され、了承されました。
全体改定率1.59%(うち0.98%は処遇改善、0.61%を事業者へ配分)は、
過去2番目に大きな上げ幅であり、ほとんど全てのサービスで基本報酬がしっかりとプラスになっており、新たな加算の創設や、既存の加算拡充など、総じて介護事業者には歓迎出来る内容となりました。
とりわけ、特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設は、大きな報酬プラスとなっています。
また、処遇改善加算は1本化されるとともに、単位数も大きく引きあげられ、
理論値では、2年分で4.5%の賃上げが可能な水準となり、他産業の賃上げに引けを取らない対応が可能となります。
現場崩壊への危機感から事業撤退への懸念も
しかしながら、令和5年度介護事業経営実態調査による収支差率が高かった
「訪問介護」、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」、「夜間対応型訪問介護」、「訪問リハビリテーション(予防のみ)」の4サービスは、まさかの基本報酬単位のマイナスとなりました。
合わせて、集合住宅に対する訪問介護の減算措置の拡大も講じられています。
とりわけ、全国3万6000を超える事業所数である訪問介護のマイナスは、地方の在宅介護の現場崩壊に繋がりかねないと強い危機感を覚えます。
直近での収支差率は確かに7.8%(前年対比+2.0%)と平均を大きく上回る数字でしたが、集合住宅併設の訪問介護や、都心部での効率良い運営の出来る事業所が収支差率を押し上げていると予測されており、地方の訪問介護事業所の経営は決して安定しているわけではありません。
将来に対する不安や心理的影響により、撤退する訪問介護事業所が加速し、地方での在宅介護サービスの供給量不足が将来生じるのではないかと懸念されます。
最優先は職員の処遇改善
せっかくの大きな上げ幅となる報酬改定でありながら、業界として素直に喜べない結果となってしまったことは、残念であり、有効な予算活用とは言えないのではないでしょうか。
全体としては、今回の改定にタイトルをつけるならば、何よりも最優先されたことは職員の処遇改善であり、「賃上げ改定」という表現が適切であると思います。
事業者は、1本化された処遇改善加算を確実に算定し、公平かつ適正な評価に基づき、職員への納得感ある分配を行うことが何よりも大切です。同時に、しっかりと分配方法について職員への説明を丁寧に行って頂きたいと思います。
4つの基本的視点に基づいた見直しの実施
加えて、今回の改定内容は6年に一度の同時改定でありながら、前回改定ほどの変革インパクトではありません。しかしながら、改革の歩みが減退していると誤った認識をもってはいけません。4つの基本的視点として示された
「地域包括ケアシステムの深化・推進」
「自立支援・重度化に向けた対応」
「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」
「制度の安定性・持続可能性の確保」
に基づいた見直しが実施されることになります。
例えば、LIFEに関連した科学的介護推進体制加算は、点数の拡充、新たなサービス追加はありませんでしたが、入力項目の簡素化や提出時期の統一、フィードバックの充実などが行われる予定であり、
新たな試みを行うのではなく、前回改定の課題を整理し、着実に現場でのLIFE定着を目指す方針であります。
現場への変革を迫るテーマも
一方で、いくぶん踏み込んだ改革が進められたテーマは「生産性向上」「DX推進」であります。
居宅介護支援における逓減制の更なる拡大、施設におけるロボット・ICT機器活用による新加算の創設、特定施設における3対1の人員配置要件の特例緩和など、こちらは現場への変革を迫る強いメッセージともなりました。
介護の在り方の変革が不可欠であること
今回の改定は、「将来の大変革に向けた土台固めの改定」と位置付けることも出来ると思います。コロナ禍や欧州での戦争に端を発した物価高騰のような異例ともいえる社会情勢の変化によって大幅なプラス改定となりましたが、今後は大きなプラス改定の実現可能性は低いと言わざるを得ません。
長期視点で考えれば報酬削減とともに、大きな制度改革が行われていくことになると思います。今回の改定でどうにか確保出来たプラス改定のうちに、大変革に向けた、土台づくりを行うための3年間であると理解し、介護事業者は、運営改革・現場での介護の在り方の変革が不可欠であることを肝に命じなければなりません。