介護経営コラム
Column

カスタマーハラスメント対策の実務

小濱 道博 氏
更新日:2026年9月30日
カスタマーハラスメント対策の実務

1,10月1日までに管理者は何を準備するのか

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラへの対策がすべての事業主に義務付けられる。介護施設や介護事業所も例外ではなく、小規模な事業所も対象である。管理者に求められるのは、法律を理解することだけではない。職員がカスハラを受けたときに、誰に相談し、何を記録し、管理者がどう判断し、どのように職員を守るのかまで、実際に動ける仕組みを作ることである。

現場で準備すべきポイントは、「方針」「相談」「記録と対応」「安全確保」「利用者・家族への周知」の5つである。

① 法人の方針と判断基準を明確にする

まず、カスハラを許さないという法人の方針を明確にし、全職員に伝える必要がある。
カスハラとは、利用者や家族などの言動が社会通念上許容される範囲を超え、それによって職員の就業環境が害されるものをいう。暴力、暴言、脅迫、性的な言動、著しく過剰な要求、長時間の拘束などが典型である。

一方で、正当な苦情やサービス改善の求めまでカスハラとして扱ってはならない。
介護では、認知症や疾患の影響による言動との切り分けも必要になる。管理者は、ケア方法や環境を見直すことで改善を図るべき問題なのか、職員の安全確保を優先して組織的に対応すべき問題なのかを判断する必要がある。

重要なのは、職員個人に判断を任せないことである。「この程度なら我慢する」「私は嫌だからカスハラと考える」という対応ではなく、事業所として共通の判断基準を持つ必要がある。

② 相談窓口と報告ルートを決める

次に必要なのが相談体制である。「何かあったら管理者に相談してください」だけでは十分ではない。誰に、どの方法で、どのタイミングで報告するのかを決めておく。管理者だけでは判断できない場合に備え、法人本部や経営者、社会保険労務士、弁護士など、次に相談する相手もあらかじめ決めておくとよい。

相談は被害が発生した後だけではない。「最近、家族の言動が激しくなった」「次回の訪問が怖い」「電話に出るのが苦痛になっている」といった段階から相談できることを職員に伝えておく。そして管理者は、相談した職員のプライバシーを守り、相談を理由に不利益な取扱いをしてはならない。「介護なのだから我慢してほしい」と職員に戻してしまえば、相談窓口を作っても機能しない。

③ 記録と発生時の対応手順を決める

カスハラ対応では記録が重要である。発生日時、場所、相手、具体的な言動、職員がどのように対応したか、目撃者の有無、その後の対応などを残せる統一した記録様式を準備しておく。単に「家族から暴言あり」と書くのではなく、可能な範囲で実際の発言や行動を具体的に記録する。繰り返されている場合には、それまでの経過も確認できるようにする。

同時に、管理者がどの段階で介入するのかも決めておく必要がある。現場職員による説明、管理者への交代、法人への報告、本人・家族への警告、警察や外部専門家への相談など、事案の程度に応じた対応をあらかじめ整理しておく。特に暴力、脅迫、危険物の使用など生命や身体への危険がある場合には、通常の苦情対応と同じ手順で処理してはならない。警察への通報を含め、職員の安全を最優先する。

④ 被害を受けた職員を具体的に守る

管理者の仕事は、事実確認だけで終わりではない。被害を受けた職員をそのまま同じ利用者や家族の担当にしてよいのかを確認する必要がある。必要に応じて担当者を変更する、管理者が対応する、複数名対応に変更する、一定期間その利用者への対応から外すなど、具体的な保護策を講じる。
訪問系では特に安全確保が重要である。危険性が考えられる利用者宅については、担当者だけが情報を抱えず、事業所内で共有する。必要に応じて複数名で訪問し、訪問開始・終了時の連絡方法や緊急時の連絡先も決めておく。そして、生命や身体に危険を感じた場合には、その場から退避してよいことを明文化しておく。

「サービスの途中だから帰れない」「利用者を残してはいけない」と職員に思わせてはならない。危険時にはサービスの継続より安全確保を優先するという方針を、管理者から明確に伝える必要がある。また、身体的な被害だけではなく、精神的な影響にも注意する。眠れない、出勤するのが怖い、利用者からの電話に強い不安を感じるといった状態があれば、休養や担当変更、必要に応じて専門家への相談なども検討する。

⑤ 利用者・家族にも事業所の方針を伝える

カスハラ対策は、職員だけに説明して終わりではない。利用者や家族にも、職員への暴力、暴言、脅迫、性的言動、著しく過剰な要求などには、事業所として組織的に対応することを事前に伝えておく。契約書や重要事項説明書などに、必要に応じて担当者変更、複数名での対応、関係機関への相談、警察への通報などを行う場合があると記載する方法も有効である。既存の利用者や家族にも、事業所の方針を文書などで知らせておくとよい。
ただし、「カスハラがあれば即契約解除」とするのではない。正当な苦情なのか、認知症等の影響があるのか、どの程度の危険性があるのかなどを確認し、個別に判断することが必要である。

2,管理者研修は具体的な場面を想定する

職員研修では、カスハラの定義を説明するだけでは不十分である。家族から大声で怒鳴られた、電話を長時間切らせてもらえない、性的な言動を受けた、訪問先で身の危険を感じた、といった具体的な場面を想定して、「その場で何をするか」を確認することが重要である。
管理者自身についても同様である。職員から報告を受けた後、誰から事実確認をするのか、利用者・家族には誰が対応するのか、どの段階で法人へ報告するのかを確認しておく。
実際の場面を想定した訓練をしておけば、発生時に管理者も職員も迷いにくくなる。

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3,10月1日までに「動ける仕組み」にする

管理者が10月1日までに準備すべきポイントは明確である。
法人の方針と判断基準を決める。相談窓口と報告ルートを決める。記録様式と発生時の対応手順を作る。被害職員の保護方法と危険時の退避ルールを決める。そして、その内容を職員と利用者・家族に伝える。

重要なのは、規程やマニュアルを作成して終わらせないことである。「誰に報告するのか」「何を記録するのか」「誰が利用者・家族に対応するのか」「どの段階で警察に相談するのか」「危険なときは退避してよいのか」。この5つについて、職員が迷わず答えられる状態にしておくことが実務上の目標である。

カスハラ対策とは、利用者や家族と対立するためのものではない。正当な苦情には誠実に対応しながら、職員を暴力や暴言、過剰な要求から組織として守るための仕組みである。管理者には、職員個人の我慢に頼る対応から、事業所全体で職員を守る対応へ転換することが求められている。

ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表。 一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。 一般社団法人介護経営研究会 専務理事。 一般社団法人介護事業援護会理事。 C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。


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