介護事業所を運営するなかで、「思うように利用者が増えない」「営業に回っているものの、なかなか紹介につながらない」と感じることはないでしょうか。
日々のサービス提供や職員のマネジメントに追われるなか、営業活動まで十分に手が回らず、「とりあえず時間のあるときに居宅介護支援事業所を訪問している」という事業所が多い印象を受けます。
しかし、ただ営業件数を増やすだけでは、安定した利用者獲得や売上向上につながるとは限りません。大切なのは、自事業所の現状を把握したうえで、誰に、何を、どのように伝えるのかを整理して営業することです。
本記事では、介護事業所が売上を伸ばしていくために押さえておきたい営業活動の考え方と、具体的な取り組みについて解説します。
【目次】
1.介護事業所の売上を伸ばす方法は大きく2つ
売上を伸ばそうと考えたとき、まず「新規利用者を増やさなければ」と考える方も多いのではないでしょうか。
実際に、売上が伸び悩むと営業件数を増やし、居宅介護支援事業所などへ闇雲に営業に回ってしまう事業所も少なくありません。もちろん、新規利用者の獲得は売上を伸ばすうえで重要です。しかし、実は利用者数を増やすことだけが売上を伸ばす方法ではないことを知っていますか?まずは、介護事業所の売上がどのような構造になっているのかを整理してみましょう。
1-1.売上は「利用者数×平均利用単価」で考える
介護事業所の売上は、大きく分けると
「利用者数 × 平均利用単価」
で考えることができます。
つまり、売上を伸ばすためには、「利用者数を増やす」または「利用者1人あたりの平均利用単価を高める」という2つの方法があります。
例えば、利用者が40人で平均利用単価が月7万円の場合、月間売上は280万円です。
ここから利用者数を50人に増やせば、平均利用単価が変わらなくても月間売上は350万円になります。一方、利用者数が40人のままでも、平均利用単価が7万円から8万円になれば、月間売上は320万円になります。
このように、売上を考えるときには「何人利用しているか」だけではなく、「利用者1人あたり、どれくらいの売上があるのか」という視点も持つことが重要です。
1-2.まず自事業所の売上を分解して考える
売上が伸び悩んでいるのであれば、まず自社の「利用者数」と「平均利用単価」に分けて現状を確認してみましょう。平均利用単価は十分に確保できているものの利用者数が少ないのであれば、新規利用者の獲得が課題です。反対に、利用者数は一定数確保できているにもかかわらず売上が伸びていないのであれば、平均利用単価に改善の余地がある可能性があります。
もちろん、両方に課題がある事業所もあるでしょう。大切なのは、「売上を上げたいから営業する」とすぐに行動へ移すのではなく、自事業所は何を改善すれば売上が伸びるのかを数字から判断することです。
利用者数に課題があるのであれば新規獲得に取り組み、平均利用単価に課題があるのであれば、ターゲットの選定や加算取得の検討、既存利用者へのサービス提供を見直す。
このように売上を分解して考えることで、自事業所が取り組むべき課題が見えやすくなります。
2.既存利用者の平均利用単価を高める
2-1.利用者のニーズを改めて把握する
現在の利用者のなかに、本来必要なサービスを十分に受けられていない方はいないでしょうか。
介護サービスを利用し始めた当初と現在では、利用者の身体状況や生活環境、家族の介護負担などが変化していることがあります。しかし、日々のサービス提供が当たり前になると、こうした変化を見落としてしまうこともあります。まずは、利用者本人や家族との会話、日々のサービス提供を通じて、「生活のなかで新たに困っていることはないか」「現在のサービスだけで十分に生活を支えられているか」という視点でニーズを改めて確認することが大切です。
2-2.必要なサービスをケアマネジャーへ積極的に提案する
利用者の新たなニーズや課題に気づいたら、事業所の中だけで情報を止めず、担当のケアマネジャーへ共有しましょう。
例えば、訪問介護であれば、サービス提供中に「以前より入浴が難しくなっている」「家族による介助の負担が大きくなっている」といった変化に気づくことがあります。
こうした現場で得られる情報は、ケアマネジャーがケアプランを見直すうえでも重要な情報です。
単に「サービスを増やしてください」と伝えるのではなく、利用者の状態や生活上の課題を具体的に共有し、必要に応じてサービス内容や回数の見直しを提案していきます。利用者に必要な支援を提案し、その結果としてサービス利用につながれば、利用者の生活を支えながら事業所の平均利用単価を高めることにもつながります。
2-3.「売上のためのサービス追加」にならないことが大前提
ここで注意したいのは、支給限度額に余裕があるからといって、必要性のないサービスまで追加することではありません。平均利用単価を高めること自体を目的にするのではなく、あくまでも出発点は「利用者に必要な支援が十分に提供されているか」です。
利用者のニーズを丁寧に把握し、必要なサービスがあればケアマネジャーへ提案する。その結果として平均利用単価が適正化される、という順番を意識することが重要であり、それも営業活動のひとつになるのです。
しかし、既存利用者へのサービスを見直すだけでは、売上を伸ばし続けることには限界があります。また、入院や施設入所、状態の変化などによって利用終了となる方もいるため、利用者数を維持・増加させるためには、継続的な新規利用者の獲得が必要です。
そこで重要になるのが、新規利用者を獲得するための営業活動です。
3.新規利用者を増やすには営業活動が欠かせない
3-1.「とりあえず営業に行く」では成果につながらない
新規利用者を増やそうと、居宅介護支援事業所などへ営業に回っている事業所は多いでしょう。しかし、「がむしゃらに近隣の居宅介護支援事業所を順番に回る」「とりあえず挨拶してパンフレットや空き状況を渡す」といった営業を繰り返すだけでは、なかなか紹介につながりません。
営業で重要なのは、訪問した件数ではなく、「このような利用者なら、この事業所に相談しよう」と相手に思い出してもらうことです。そのためには、営業に行く前に「自事業所は何が得意なのか」「どのような利用者を受け入れたいのか」を明確にしておく必要があります。
3-2.まず自事業所の強みを明確にする
「丁寧なサービスを提供します」「利用者に寄り添います」といった言葉だけでは、他事業所との違いは伝わりにくいものです。営業で伝える強みは、紹介する側が具体的な利用者をイメージできる内容にしましょう。
例えば、
「認知症の方への対応経験が豊富」
「医療依存度の高い方にも対応できる」
「早朝・夜間の依頼にも対応できる」
など、具体的であるほど紹介する側も相談しやすくなります。すべての利用者に選ばれようとするのではなく、「〇〇のケースならこの事業所」というポジションをつくることが、他事業所との差別化につながります。
3-3.「誰に利用してほしいか」ターゲットを絞り込む
自事業所の強みを整理したら、次に考えるのがターゲットです。どのような利用者を獲得したいのかによって、営業すべき相手も、伝える内容も変わります。
例えば、退院直後でリハビリが重点的に必要な利用者を積極的に受け入れたいのであれば、居宅介護支援事業所だけでなく、病院の地域連携室や老健なども営業先として考えられます。
営業活動では、「とにかく多くの事業所を回る」ことよりも、自事業所の強みを必要としている利用者と接点を持つ相手に営業することが重要です。強みとターゲットが明確になれば、「どこに営業するのか」「営業先で何を伝えるのか」も具体的になります。
4.選ばれる介護事業所になるための営業戦略
自事業所の強みとターゲットが明確になったら、実際の営業活動に落とし込んでいきます。
営業で大切なのは、自事業所のことを一方的に説明することではありません。「誰に」「何を伝え」「どのような相談につなげたいのか」を意識して営業することが重要です。
4-1.ターゲットを抱えている営業先に集中する
営業先は、単純に距離が近いという理由だけで決めるのではなく、自事業所が獲得したい利用者との接点があるかという視点で選びます。
例えば、退院直後の利用者を積極的に受け入れたいのであれば病院の地域連携室、在宅で生活する要介護者を獲得したいのであれば居宅介護支援事業所など、ターゲットによって優先する営業先は異なります。限られた時間のなかですべての営業先を同じ頻度で訪問するのではなく、紹介につながる可能性の高い営業先へ時間を集中させることが大切です。
4-2.ケアマネジャーの「困りごと」を聞く営業に変える
営業先で自事業所の説明だけをして帰っていないでしょうか。営業は、自事業所を知ってもらうだけでなく、相手が何に困っているのかを知る機会でもあります。
例えば、「最近、受け入れ先を探すのに困っているケースはありませんか」「どのような利用者のサービス調整に困ることが多いですか」など、相手の困りごとを聞いてみましょう。
そこで自事業所が対応できるケースがあれば、具体的な対応方法を伝えます。
「利用者を紹介してください」とお願いする営業ではなく、「困っているケースがあれば相談してください」という営業に変えることが、紹介につながる関係づくりには重要です。
4-3.一度の訪問で終わらせず、継続的な接点をつくる
一度営業に行っただけで、すぐに利用者を紹介してもらえるとは限りません。営業したタイミングで、自事業所に合う利用者がいるとは限らないためです。そのため、一度の訪問で成果を判断するのではなく、空き状況や受け入れ可能なケースなどを定期的に伝え、継続的に接点を持つことが重要です。
接点を重ねることで、自事業所の特徴を覚えてもらいやすくなり、実際に該当するケースが出たときに相談先の候補として思い出してもらえる可能性が高まります。
営業は「その場で紹介をもらうこと」だけを目的とするのではなく、必要なときに思い出してもらえる関係をつくる活動として取り組みましょう。
5.営業活動を「仕組み」にする
営業活動を継続的な利用者獲得につなげるためには、個人の経験や感覚だけに頼るのではなく、成果を数字で管理し、改善していくことが重要です。
5-1.営業件数だけでなく「紹介・契約」まで管理する
「今月は50件営業した」という営業件数だけでは、その活動が成果につながっているのかを判断できません。営業先ごとに「訪問・連絡した回数」「相談・紹介件数」「契約件数」などを記録し、どの営業先から実際に利用者獲得につながっているのかを把握しましょう。
5-2.紹介につながった営業先・利用者像を分析する
紹介があった場合には、「どこから紹介されたか」だけでなく、「どのような利用者だったか」まで確認します。
分析を続けることで、「この居宅からはリハビリが必要な方の相談が多い」「この病院からは精神疾患の方の相談が多い」など、営業先ごとの傾向が見えてきます。
5-3.成果の出る営業先へ時間を集中させる
営業活動に使える時間や人員には限りがあります。すべての営業先を同じ頻度で回るのではなく、紹介実績や相談件数などをもとに優先順位をつけ、成果につながりやすい営業先との関係構築に時間を使いましょう。
営業件数を増やすこと自体を目的にせず、「どの営業活動が利用者獲得につながったのか」を振り返り、次の営業に反映する。このサイクルを繰り返すことで、営業を属人的な活動から、事業所として再現性のある仕組みへと変えていくことができます。
6.まとめ|選ばれる事業所になるために
介護事業所の営業では、自事業所の強みを明確にし、どのような利用者に選ばれたいのかを整理したうえで、その利用者と接点を持つ相手に適切な情報を届けることが重要です。
また、営業活動は一度で成果が出るものではありません。日頃から関係機関との接点を持ち、相談しやすい関係を築いておくことで、必要なケースが生じたときに思い出してもらいやすくなります。
営業を「利用者を紹介してもらうための活動」と捉えるのではなく、地域のなかで自事業所の役割を知ってもらい、信頼を積み重ねる活動として取り組むことが大切です。
それを積み重ねると、既存利用者に必要なサービスを適切に届け、新規利用者の獲得を継続していくことができます。結果として利用者数と平均利用単価の双方が改善され、事業所の売上向上や安定した経営につながっていく好循環がうまれるでしょう。

片山 海斗 氏

