介護経営コラム

Column

AI・介護ロボットを入れるだけでは何も変わらない

―導入後から始まる「介護テクノロジー経営」の本質―

髙山 善文 氏
更新日:2026年8月31日
AI・介護ロボットを入れるだけでは何も変わらない―導入後から始まる「介護テクノロジー経営」の本質―

介護業界では今、見守りセンサー、介護記録システム、生成AI、介護ロボット、ウェアラブル端末など、次々と新しいテクノロジーが登場しています。国もその導入を強力に後押ししています。厚生労働省は「介護テクノロジー利用の重点分野」を9分野16項目に拡充し、各都道府県でも補助制度を活用した導入支援が進められています。
私自身も、支援している介護事業者で、補助金を活用しながら介護システムやICT機器の導入を進めています。現在は「導入」から「定着」へ移る過渡期であり、職員もようやく新しいシステムの操作に慣れてきました。
しかし、ここからが本当のスタートです。
介護経営者が考えるべきなのは、
「何を導入したか」ではなく、「導入した結果、何が変わったのか」ではないでしょうか。

センサーを入れただけでは介護は変わらない

例えば、夜間の離床を検知する見守りセンサーを導入したとします。センサーが「離床しました」と通知する。ここまでは機械の仕事です。
問題は、その先です。
誰が通知を確認するのか。すぐ訪室するのか、一定時間様子を見るのか。利用者はトイレに行きたいのか、痛みがあるのか、あるいは別の原因があるのか。誰が判断し、どの段階で看護師や医師につなぐのか。
この流れが共有されていなければ、どれほど高性能なセンサーも単なる「通知装置」で終わります。

つまり、検知 → 判断 → 行動 → 評価 → 改善までが一つにつながって初めて、テクノロジーは「ケアの仕組み」の一部になるのです。
海外の研究でも、この点を示唆する結果があります。英国のATTILA試験では、在宅で暮らす認知症の人495人を対象に、センサーや警報装置などを充実させた群と限定的な機器を使用する群を比較しましたが、ADLなどを調整した分析では、施設入所までの期間に統計学的に明確な差は確認されませんでした。
「機器を入れること」と「生活を良くすること」は同じではないのです。

「導入台数」から「成果」へ

日本の介護DXでは、
「補助金が出るからセンサーを入れる」
「ICTを導入する」
「実証実験を行う」ところまでは進んでも、
その後、
「記録時間は何分減ったのか」
「夜勤者の負担は減ったのか」
「事故やヒヤリハットは減ったのか」
「職員の残業や離職は減ったのか」
「利用者の生活は良くなったのか」まで検証されないことがあります。
しかし、国の政策も変わりつつあります。
厚生労働省は介護テクノロジーについて、実際の介護施設等で効果測定を行い、「ケアの質の確保」や「職員の負担軽減」などの観点からエビデンスを収集・蓄積する取り組みを進めています。政策も、「何台導入したか」から「導入して何が改善したか」へと移り始めているのです。
厚生労働省は介護分野の生産性向上についても、単なる人員削減や効率化ではなく、「一人でも多くの利用者に質の高いケアを届ける」ために介護の価値を高めることと位置づけています。
つまり、介護DXの目的は「人を減らすこと」ではありません。
人がやらなくてもよい仕事をテクノロジーに任せ、人にしかできない仕事に職員を戻す。
私は、ここが重要だと考えています。 イメージ画像

介護経営者が見るべき成果指標

そこで、介護事業者がテクノロジーを導入するときには、少なくとも次の5つを導入前後で測定する必要があります。

  • ①職員の業務時間
  • ②残業時間・夜勤負担
  • ③事故・ヒヤリハット
  • ④利用者の生活・自立度・満足度
  • ⑤職員定着率

例えば補助金を使い、1,000万円をかけて最新機器を導入しても、職員の業務時間も離職率も利用者の生活も変わらなければ、経営投資として成功したとは言いにくいでしょう。反対に、システム導入によって記録時間や夜間巡回が削減され、その時間を利用者との会話や直接的なケアに振り向けられたのであれば、大きな意味があります。
「便利になった」という感想ではなく、導入前と導入後を数字で比較することが重要だと考えるのです。

補助金がなくなっても使い続けられるか

さらに介護経営者が考えなければならないのが、補助金終了後のランニングコストと投資対効果です。補助金を活用すれば、初期投資を大幅に抑えられる場合があります。しかし、「補助金で安く導入できること」と「経営上、導入する価値があること」は別問題です。
システムには月額利用料、クラウド利用料、通信費、保守費、ライセンス料、端末更新費などが継続的に発生します。だからこそ導入時に、購入価格だけでなく、例えば5年間使用した場合に総額でいくらかかるのかという総保有コストを確認しておく必要があります。

そして、その費用に対して、どれだけの効果が生まれたのかを測ります。記録時間が年間何時間減ったのか。残業代はいくら減ったのか。夜勤負担はどう変化したのか。離職防止につながったのか。事故が減ったのか。こうした効果と費用を比較して初めて、投資対効果が見えてきます。
補助金とは、単に「安く機械を買うためのお金」ではなく、新しい業務モデルを試し、その効果を検証するための初期投資を支援する仕組みと考えるべきではないでしょうか。
つまり、重要なのは、「補助金がなくなっても、自社のお金で使い続けたいと思えるか」です。そこまで到達して初めて、介護テクノロジーは「補助金で買った機器」から「経営を支えるインフラ」へ変わります。

AI時代に経営者が買うべきものは「機械」ではない

AIやロボットが進化しても、利用者の表情を見て声をかける、いつもと違う変化に気づく、家族の不安を受け止める、その人が何を大切にして生きてきたのかを理解する――こうした介護の本質まで、簡単に機械へ置き換えられるものではありません。
だからこそ、AIやロボットに「作業」を任せ、人間にしかできない「ケア」に職員を戻す。これが介護DXの目指す方向だと思います。これから介護経営者に求められるのは、「最新機器をたくさん知っていること」ではありません。テクノロジー、人材、業務プロセス、医療連携、データを一つのシステムとしてその成果を経営数字とケアの質の両面から検証できることです。
メーカーに尋ねる質問も変わります。「この機械には何ができますか」ではなく、「これを導入すると、利用者と職員と経営の何が、どれだけ良くなりますか。そして、それをどう測りますか」
この問いから、「介護テクノロジー経営」は始まるのだと思います。

【主な出典・参考資料】
厚生労働省「介護テクノロジー利用の重点分野について
厚生労働省「介護テクノロジーの利用促進
厚生労働省「介護分野における『生産性向上』とは?
厚生労働省「令和8年度 介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定について
PubMed掲載論文認知症患者の在宅自立生活を維持するための支援技術と遠隔医療
Gathercole R, et al. Assistive technology and telecare to maintain independent living at home for people with dementia: the ATTILA RCT.

ライター紹介
髙山善文
髙山 善文(たかやま よしふみ)氏
介護・福祉経営コンサルタント/ティー・オー・エス株式会社 代表取締役

「現場の質を落とさずに、利益を確保するにはどうすればいいか?」——そんな介護経営者の皆様の悩みを、現場と経営の両面から解決します。福祉用具販売、老人ホーム運営、ケアマネジャー等の現場実務から、大手企業でのマネジメントまで、業界経験は33年。現場の葛藤と制度の乖離に苦しんだ自身の経験から2014年に独立しました。現在は「現場感覚を持った経営支援」を信条に、事業戦略策定、収益改善、ICT導入、監査対応など、実務に即したコンサルティングを展開。単なる手法の押し付けではなく、「経営の目的」を言語化し、スタッフが働きやすく収益も上がる仕組みづくりに伴走します。「何から手をつければいいか分からない」といった段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。
・大正大学非常勤講師/社会福祉士/介護支援専門員
【著書】
『図解即戦力 介護ビジネス業界のしくみと仕事』(技術評論社)、『介護の現場と業界のしくみ』(ナツメ社)ほか

【問い合わせ先】
https://www.jtos.co.jp/


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