介護経営コラム

Column

「外食分野での特定技能1号の受け入れ停止を受けて
介護業界への影響と外国人活用のゆくえについて」

斉藤 正行 氏
更新日:2026年5月8日
「外食分野での特定技能1号の受け入れ停止を受けて 介護業界への影響と外国人活用のゆくえについて」

1.介護分野における外国人活用の現状について

介護現場における人手不足が深刻な状況にあることは周知のとおりであり、2040年には約57万人の介護人材が不足すると予測されています。政府は人手不足の対策に向けて介護従事者に対する処遇改善や、多様な人材の確保、離職防止に向けた取組み、生産性向上の推進など総合対策を講じています。その総合対策の重要な政策の1つに外国人活用の環境整備が位置づけられています。

介護現場における外国人材活用には様々な在留資格がありますが、主たるものは大きく4つです。1つは、在留資格「介護」です。2017年円9月に新設された在留資格で、外国人が介護職として働くための就労資格であり「介護福祉士」資格の取得が大前提となっています。2つ目は、EPAです。日本と諸外国による2国間で締結された経済連携協定に基づき、「介護福祉士」の資格取得を目指して介護現場で就労してもらいます。3つ目は、「技能実習制度」です。先進国である日本から発展途上国への技能移転を目的とした制度であり「技能実習生」として介護現場で就労してもらいます。2017年11月より新たに介護も職種追加されることとなりました。今後は「育成就労制度」へと移行することとなります。4つ目が、「特定技能制度」です。就労を目的として、人手不足の解消のため、2019年4月より開始された制度であり、制度開始時より介護分野も対象職種とされています。特定技能制度は原則5年間を最長期間とする1号と、職種によっては永住権を認められる2号と在留資格は整理されており、介護分野では介護福祉士取得による在留資格「介護」による永住権が認められていることから特定技能2号の制度は整えられていません。

この特定技能1号の在留者数は分野ごとにひとまずの受け入れ上限人数が定められています。介護分野での上限人数は12万6,900人とされており、昨年11月末時点での在留者数は6万5,505人と発表されており、他の分野と比較しても多くの特定技能1号の人材が介護現場では活用されていると言えます。

2. 外食分野における特定技能1号の受け入れ停止による介護分野の見通し

外食業界に衝撃が走り多くの事業者が今後の人手不足の対応に頭を悩ませる措置がとられました。令和8年4月13日をもって、外食分野での特定技能1号の在留者数が上限の5万人に達する見通しとなり、新規受け入れが停止となりました。

この報道は決して対岸で行っていることではなく、介護業界においても近い将来に訪れる可能性のあることであり、報道を受けて、その時が更に早まる可能性も秘めていると思います。前述のとおり介護分野での特定技能1号の受け入れ上限人数12万6,900人に対して昨年11月末時点での在留者数が6万5,505人であり上限に対して5割を少し超えた状況です。2019年4月の特定技能の受け入れ開始から7年でまだ上限の半分程度なので、単純計算すればあと7年は猶予があると思われる向きもあるかもしれませんが、私はそうではないと思います。そもそも特定技能の開始時期である2019年末よりコロナ禍が始まり、この数年間は思うように外国人の受け入れが出来ない時期でありました。特定技能1号の在留者が急速に増え始めたのは、直近数年来のことであります。また昨年11月から半年ほど経過しているので、現時点では更に在留者数は増加していることは間違いなく、上限まで6割弱程度に達していると推測されます。更には、コロナ禍の鎮静化とともに、介護業界における有効求人倍率は年々高まっており、人材確保がいっそう困難な情勢となっていることを鑑みると、外国人の受け入れ数の増加速度は、更にペースが上がることも予測されます。

そのような背景の中で、今回の外食業界での報道を受けて、介護事業者の中でも先の見通しに対する危機感を強めている人達も多いです。近い将来の受け入れ停止を見据えた先行的な外国人確保に動く事業者も一定数いると考えられます。とりわけ経営体力のある大手法人では先行確保の動きがあり得ると思います。そういった先行確保の動きが拡がると、上限に達する時期が更に早まることも想定されます。このような状況を鑑みると、私は極めて近い将来に介護分野の特定技能1号の在留者数が上限に達することになると思います。その際に外食業界と同様に新規受け入れの停止となってしまうのか。それとも更なる上限数の見直しの議論が行われることとなるのか。今後の議論のゆくえに注目していきたいと思います。

3.これからの介護分野における外国人活用の制度同行のゆくえ

介護分野における現在の人手不足の状況と、今後は労働人口全体が減少する中でますます人手不足が加速すると予測されています。特定技能1号の受け入れ停止の事態が生じた場合には介護現場での人手不足の深刻さが極まることとなり、施設・事業所の閉鎖が相次ぐことも想定され、大都市圏を中心に今後ますます要介護高齢者の増加が見込まれる地域においては必要な介護サービスを受けることの出来ない介護崩壊にも繋がりかねないのではないかと私は強い危機感を覚えています。

介護分野での特定技能1号の上限人数に達するまで、残された期間は短いと予測されるもののまだ少しの時間的猶予があります。この間に政府に対する働きかけをしっかりと進めていき、他分野の在留者数の状況等を分析し、日本全体の受け入れ数を変えることなく、不足が顕著な分野への上限見直しの検討を行っていただくよう積極的なロビー活動が必要であると思います。そして同時に、上限を拡大することに対する世論の理解を得ていくための啓蒙が必要であると思います。介護分野の人手不足の深刻な状況に対する理解を求めるために声をあげていく必要があるとともに、人手不足の構造解決に向けた介護従事者に対する処遇改善の公的支援を含めた総合対策をいっそう強化していくことも不可欠であると思います。

特定技能や技能実習(育成就労)における訪問介護サービスでの活用がようやく開始されて1年が経過したところであり、その運用状況をしっかりと把握し、1年間の実務経験の必要性の有無や、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの集合住宅に対する要件緩和など、まだまだ介護分野における外国人活用の制度の見直しを適宜行っていく必要がある状況であり、そのような情勢の中、特定技能1号の受け入れ停止が短期間のうちに生じないように政府に対して積極的な働きかけを行っていく必要性があります。皆様には是非とも今後の制度同行のゆくえを注視いただきたいと思います。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
立命館大学を卒業した後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。飲食業のコンサルティング、事業再生などを手がける。 その後メディカル・ケア・サービス株式会社に入社し、「愛の家」ブランドでグループホームを全国に展開し、取締役運営事業本部長に就任。 2010年に、株式会社日本介護福祉グループへ入社。「茶話本舗」ブランドで小規模デイサービスをフランチャイズ展開し、取締役副社長に就任。 2013年に、株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。 一般社団法人日本介護ベンチャー協会の代表理事、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を運営する一般社団法人日本介護協会副理事長、 その他にも多くの介護関連企業・団体の役員・顧問を務めている。


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