「2年前に採用した外国人職員が、最近怠けることを覚えた」
現場の経営者や施設長から、こうしたご相談を受けることが少なくありません。入社当時は「素直で一生懸命」「みんなの娘や息子のよう」と絶賛されていた彼らが、気づけば日本人職員の“悪いところ”をそっくり真似し、手を抜くタイミングや言い訳の仕方までコピーしてしまう。
急増する外国人スタッフを前に、多くの管理者は彼らの変化を「本人の資質」や「指導不足」に求めがちです。しかし、結論から申し上げると、これは個人の問題ではなく、日本の介護経営が抱える「しくみの欠陥」に対する、極めて合理的な適応なのです。
このコラムでは真面目だった外国人職員が、なぜ数年で手を抜くようになるのか。その原因を「本人の資質」ではなく、日本の介護現場に根付く自己犠牲の美化、曖昧な指示、不透明な評価制度といった“仕組みの問題”として捉え直し、人に依存しない組織づくりのヒントを解説します。
【目次】
■ 自己犠牲の美化が引き起こすモチベーション低下
日本の介護現場は、長らく現場の「職業的自己犠牲」と「曖昧な役割分担」に依存して回るシステムでした。「利用者のため」と契約外の業務や介護報酬に評価されないグレーゾーン(いわゆるシャドーワーク)を現場が飲み込み、空気を読んで引き受ける働き方こそが、ある種の「プロ意識」として美化されてきたのではないでしょうか。
日本人は、この職務範囲を限定しない「メンバーシップ型」の働き方に慣れきっています。しかし、世界の常識は、職務内容を明確に定義して働く 「ジョブ型」です。業務とは契約であり、役割は線引きされているのが当たり前なのです。
実は、この「外国人材のモチベーション低下」は介護業界に限った話ではありません。製造業やIT業界などでも、日本的な「曖昧なマネジメント」が大きな壁となっています。パーソル総合研究所の調査(※出典1)によれば、外国人材が日本人上司に抱く不満として「仕事の範囲を明確に指示してくれない」という点が際立っています。また、不透明な評価や処遇(給料が上がらない、昇進が遅い等)への不満が上位を占めています。
契約社会で育った彼らにとって、「言われていない業務まで察して行う」ことは美徳ではなく、単なる「契約外労働」です。一生懸命に自己犠牲を払って穴を埋めても明確に評価されず、一方で要領よく手を抜く職員が同じ給与をもらい続けている。
彼らは現場を冷静に観察し、「真面目にやるより、適当にやる方が得である」という介護現場の残念な事実に気づいてしまったのではないでしょうか。彼らが「手を抜く」のは、日本の悪習に染まったからではなく、報われない理不尽なシステムを見抜き、自分の身を守るために適応した結果に過ぎない―――と、筆者は思うのです。
■ 組織を見直すための「3つのヒント」
この状況を、組織をさらに強くするためのチャンスと捉え、経営の仕組みを少しずつ見直してみてはいかがでしょうか。ここでは、経営者の皆様にヒントとなる3つの視点をご提案します。
① 「現場の頑張り」に依存しない計画づくり
「現場が頑張ってくれているから何とかなる」という状態は、裏を返せばギリギリのバランスで成り立っているということです。個人の献身や自己犠牲は、素晴らしい資質ですが、数値化や再現が難しく、いつまでも続くものではありません。まずは予算策定や人員配置を考える際、いったん「現場の自己犠牲」を計算から外して考えてみることが大切です。スタッフに無理をさせない、構造的に回る仕組みづくりを目指してみませんか。
② 「暗黙の了解」を言葉にし、役割を明確にする
介護現場には「家族のような温かさ」も大切ですが、ベースにあるのは「専門職によるサービス」です。「言わなくてもわかるだろう」という暗黙の了解を少しずつ減らし、日々の業務や責任、役割を言葉にして(ジョブ・ディスクリプション化して)いくことをお勧めします。どこからどこまでが自分の仕事(責任範囲)なのかが明確になることは、外国人材の迷いをなくすだけでなく、日本人を含めたすべての職員が安心して働ける防波堤になるはずです。
③ 「やらないこと」を決め、サービスの境界線を引く
ご利用者様やご家族の要望をすべて叶えたいという想いは痛いほどわかりますが、それを現場の自己犠牲でカバーし続けることには限界があります。ときには「ここから先はお受けできない」と境界線を引くことも、大切なスタッフを守るための重要な経営判断です。もし介護報酬の範囲内で対応が難しい要望があれば、はっきりと「できない」と伝えるか、自費の介護保険外サービスとして適切に案内する仕組みを整えていくのも一つの有効な手段です。
■ 他業界の成功例に学ぶ!「人に依存しない組織」をつくる6つの階段
では、具体的にどう組織を変えていけばよいのでしょうか。実は、製造業やIT業界などが先に乗り越えてきた「人材マネジメントの階段」が、これからの介護現場を変える大きなヒントになると考えます。一段ずつステップアップしていくイメージで確認してみてください。
ステップ①:まずは「人数」を揃える段階
今の状態: とにかく人を採用して現場に配置するだけ。教え方は現場の職員に丸投げです。
現在地: 残念ながら、今の多くの介護現場がこの「1段目」で足踏みしています。
ステップ②:「誰でも同じようにできる」仕組みを作る段階
やること:個人の感覚や「やりがい」に頼るのをやめ、業務の手順書を作ります。動画や図を使い、言葉の壁があっても「見てわかる」ようにします。
ポイント:ここが外国人材活用の最初の大きな壁です。属人化(あの人しかできない)から抜け出すための最も重要なステップになります。
ステップ③:「行き当たりばったり」の教育を卒業する段階
やること:「新人が入ったら、いつまでに何を教え、どうやってリーダーに育てていくか」という育成のレールを敷きます(製造業が得意なやり方です)。
ポイント:「自分が成長している」という実感が、外国人材のやる気に火をつけます。ただし、ステップ②(手順書)がない状態では、この教育はうまくいきません。
ステップ④:「なんとなくの頑張り」ではなく「成果」で評価する段階
やること:「利用者のために一生懸命だから」といった曖昧な評価をやめます。「記録が正確に書けるか」「事故をどれだけ防げているか」など、目に見える基準(スキルや結果)で評価し、本人にきちんと伝えます(IT・小売業界が進んでいる領域です)。
ステップ⑤:「ずっとここで働きたい」と思える環境を作る段階
やること:「この条件をクリアすれば給料が上がり、役職につける」という将来の道筋をはっきりと見せます。同時に、誰もが意見を言いやすい風通しの良いチームを作ります。
ステップ⑥:現場が「自分たちで」進化し続ける段階
最終ゴール:トップが指示を出さなくても、現場のスタッフ自らが課題を見つけ、スマホやタブレット等を使って解決策を共有し合う状態です。
ポイント:この最上段まで登りきると、スタッフが「外国人かどうか」は、組織にとって全く問題ではなくなります。
■ おわりに
外国人介護職員の皆さんは、私たちの組織が抱える「課題」を教えてくれる鏡のような存在かもしれません。 皆さんの現場は、一生懸命に頑張るスタッフが、かえって報われない思いをしてしまう環境になってはいないでしょうか。現場の優しさに頼り切る体制から少しずつ卒業し、誰もが安心して働き続けられる「仕組みで支えるプロの組織」へと、共に一歩を踏み出してみませんか。
出典1:パーソル総合研究所,2020,「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」

髙山 善文 氏

