介護経営コラム

Column

介護業界はAI前提へ──診療報酬改定でみえた介護事業へのAI導入

小濱 道博 氏
更新日:2026年4月30日
介護業界はAI前提へ──診療報酬改定でみえた介護事業へのAI導入

1,AI活用は選択ではなく前提という方向性

2026年4月の診療報酬改定は、単なる制度変更ではなく、これからの医療・介護の方向性をはっきりと示すものであった。日本では働く人の数が急速に減っており、人手不足は今後さらに深刻になる。その中で国は、制度を維持するための解決策としてデジタル技術の活用を明確に打ち出した。特に重要なのは、これまでのICT活用の段階を超えて、AIを前提とした運営へと舵を切った点である。従来は、パソコンや記録ソフトを使うことで業務を効率化するという考え方が中心であった。しかし今回の改定では、AIやICTの活用が人員配置や報酬と直接結びつく仕組みとなり、単なる便利ツールではなく、経営の基盤として位置付けられたのである。

2,AI導入で人員配置が変わる

今回の改定で最も大きな変化は、人員配置の考え方である。これまでは「何人配置するか」が基準であったが、AIやICTを活用することで、その人数を減らすことが認められるようになった。例えば病院では、見守りセンサー、音声入力、AIによる記録作成、情報共有端末などを組み合わせて活用することで、看護職員の配置を最大で1割減らすことが可能となった。また、医師の事務作業についても、AIによる文書作成や業務自動化を導入することで、事務職員の配置を効率化できる仕組みが整えられている。つまり国は、「人手不足だから人を増やす」のではなく、「テクノロジーで人手を補う」方向へと明確に転換したのである。

3,AI活用には安全性と教育が必須

ただし、AIを導入すれば無条件でメリットが得られるわけではない。国は同時に、厳格なルールも設けている。まず、導入するAIは国のガイドラインに沿ったものでなければならない。そして、それを使う職員全員に対して、適切な利用方法に関する研修を行うことが義務付けられている。これは、AIの誤作動や情報漏えいといったリスクを防ぐためである。つまり、「正しく使える体制がある事業所だけが、AIによるメリットを得られる」という仕組みである。AIは便利な道具である一方、扱いを誤ればリスクにもなる。そのため、教育とルール整備がセットで求められている。

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4,2027年介護報酬改定への同じ流れは必ず来る

この流れは、医療だけで終わるものではない。むしろ、より人手不足が深刻な介護分野において、さらに強く影響が出ると考えられる。2027年の介護報酬改定では、今回の医療と同様に、AIやICTの活用が前提となる制度設計になる可能性が高い。人員配置についても、従来の「人数基準」から、テクノロジー導入を前提とした柔軟な基準へと変わっていくと予測される。例えば、見守りセンサーによる夜間業務の軽減や、音声入力とAIによる記録作成などが、人員基準緩和の条件として組み込まれる可能性がある。これに対応できない事業所は、人件費の負担が増え続け、経営的に不利な立場に置かれることになる。もう一つの大きな変化は、医療と介護の連携のあり方である。今回の改定では、ICTを使って日常的に情報共有ができている場合、会議の回数を減らすことが認められた。これは、従来のように定期的に集まって会議を行う形から、日常的にリアルタイムで情報を共有する形へと移行していることを意味する。今後の介護分野でも、こうしたデジタル連携が進み、ICT環境の整備が報酬や加算の条件になる可能性は高い。

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5,AI導入はもはや「やるかどうか」ではない

こうした流れを踏まえると、AIやICTの導入は、もはや選択肢の一つではない。事業を継続するための前提条件となったといえる。これまでは、費用や職員の抵抗感を理由にデジタル化を先送りすることもできた。しかし現在は、AIの導入が人員配置や報酬に直結するため、導入しないこと自体が経営リスクとなる。つまり、AI投資はコストではなく、将来の収益と安定経営を確保するための戦略である。AIの導入は、現場で働く職員にも大きな影響を与える。記録作成や申し送り、計画書の作成補助など、多くの業務が効率化されることで、事務作業の負担は大幅に減る。また、見守りシステムの活用により、夜勤の負担や心理的なプレッシャーも軽減される。その結果、職員は本来のケア業務に集中できるようになり、働きやすい環境が整う。逆に、こうした環境を整えていない事業所は、求職者から選ばれにくくなる。AIを活用しているかどうかが、採用力にも直結する時代がすでに始まっている。

6,重要なのは「正しい使い方」

ただし、AIは導入すればよいというものではない。重要なのは、自施設に合った形で、段階的に導入することである。まずは情報収集を行い、自施設の課題を明確にする。その上で、小さな業務から試験的に導入し、徐々に範囲を広げていく。そして同時に、職員への教育やルール整備を進めることが不可欠である。AIは「導入すること」よりも、「使いこなすこと」に価値がある。今回の診療報酬改定が示したのは、ICTからAIへの明確な転換である。これからの医療・介護は、AIを前提とした運営へと進んでいく。この変化を受け入れ、活用していく事業所は、生産性を高めながら安定した経営を実現できる。一方で、変化を避け続ける事業所は、人手不足とコスト増の中で厳しい状況に置かれることになる。AIを導入するかどうかではない。AIを活用できる組織になるかどうかが、これからの介護事業の分岐点である。2026年の改定が示したのは、AIを使いこなす者とそうでない者の間に生じる決定的な格差である。これは、顧問としての税理士や社労士、コンサルタントの選び方も大きく変わること意味する。単純な事務作業はAIに取って代わられる時代が来る。顧問に求めるものは、専門家として提供される情報の価値となるだろう。

ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表。 一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。 一般社団法人介護経営研究会 専務理事。 一般社団法人介護事業援護会理事。 C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。


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