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介護事業所のM&Aと聞くと、売上や利益、利用者数の多さが大事だと思われがちです。もちろん数字は重要です。介護事業の引継ぎでは、それだけで評価が決まるわけではありません。
M&Aとは、事業所や会社を第三者に引き継ぐことです。そのとき買い手が見ているのは、「今どれだけ売上があるか」だけではなく、「引き継いだあとも、その事業所が安定して続いていくかどうか」です。
たとえば、今は数字が良くても、その売上が無理な人員配置や、あいまいな運営、整っていない書類の上に成り立っているのであれば、引き継ぐ側としては不安が残ります。逆に、日々の運営が整っていて、必要なことがきちんと回っている事業所は、引き継いだあとも崩れにくい。ここに大きな差があります。
その違いが表れやすいのが、運営指導です。
運営指導に強い事業所は、日々の運営が整っている
運営指導とは、介護事業所が基準やルールに沿って運営できているかを、行政が確認しにくる仕組みです。つまり、普段の事業運営の中身が、そのまま見られる場だと考えるとわかりやすいと思います。
ここで大事なのは、運営指導はその場だけうまく乗り切ればいいものではない、ということです。確認されるのは、日頃からきちんと運営できているかどうかです。
人員体制に無理はないか。計画と記録、報告の流れはつながっているか。加算の算定条件は揃っているか。法定書類は整っているか。委員会や会議は、決められた時期に、決められた形で実施できているか。
こうしたことは、どれも特別なことではありません。介護事業を続けていくうえで、本来きちんとできていなければならないことです。だからこそ、運営指導に強い事業所というのは、単に「指摘されにくい事業所」ではなく、日々の運営が整っている事業所だと言えます。
M&Aで見られるのは、数字よりも継続力
介護事業のM&Aで本当に評価されるのは、売上の大きさだけではありません。
もっと大事なのは、その事業所に継続力があるかどうかです。
介護事業所は、一般的な民間サービスとは違い、介護保険制度の中で運営される事業です。
利用者にサービスを提供し、その対価は保険制度の中で支払われていく。だからこそ、ルールに沿って運営されていることが大前提になります。
買い手からすると、引き継いだあとに大きな混乱が起きないかは非常に重要です。
書類が足りない、記録がつながらない、加算の条件が実は満たせていない、人員配置に無理がある。こうした状態だと、たとえ今の売上が高くても、その数字をそのまま信用することはできません。
一方で、運営指導に強い事業所は、日々の運営の土台ができています。国の考え方や基準に沿って運営しているということは、運営指導で大きくつまずくリスクが低いということでもあり、仮に何かあったとしても、整理して対応できる余力があるということでもあります。
M&Aで見られるのは、まさにこの「続けられる力」です。
売上があることよりも、その売上が今後も安定して積み上がるか。
利用者がいることよりも、その利用者に継続して質のあるサービスを提供できるか。
そこを支えているのが、運営指導に強い事業所の運営力です。
良い事業所は、現場と運営がつながっている
運営指導に強い事業所には、共通する特徴があります。それは、現場の仕事と、運営の管理が分かれていないことです。介護の現場では、毎日やることが多く、とにかく忙しい。
その中で、どうしても書類や記録、会議や委員会の実施が後回しになってしまうことがあります。本当に強い事業所は、忙しい中でもそこが切れていません。
たとえば、計画を立てる。その計画に沿ってサービスを提供する。提供した内容を記録する。その記録が報告や請求につながる。さらに、加算を算定しているのであれば、その条件がきちんと揃っている。
こうした一連の流れが、無理なくつながっています。
つまり、現場だけを頑張っているわけでもないし、書類だけ整えているわけでもない。
現場でやっていることと、運営として残っているものが一致しているのです。ここが整っている事業所は強いです。運営指導でも安心できますし、M&Aの場面でも安心感があります。
属人化していないことも、大きな評価ポイントになる
もう一つ、とても大事なのが属人化していないことです。
介護事業所では、「この人がいないと回らない」という状態が起きやすいです。経営者しか理解していない。管理者しか分からない。サービス提供責任者しか把握していない。事務の担当者しか請求のことを知らない。こうした状態は、日常では何とか回っていても、引継ぎの場面では一気にリスクになります。
買い手が不安に思うのは、もし中心人物や担当者が退職したらどうなるのか。引き継いだあとに、誰がどこまで把握できるのか。委員会の運営、記録の管理、加算の算定、行政対応が一人の経験や知識に依存している事業所は、見た目以上に不安定です。
逆に、良い事業所は、誰か一人の頑張りだけで回っていません。組織として必要な情報が共有されていて、役割分担ができていて、やるべきことがマニュアルや仕組みとして回っています。
担当者が変わっても、一定の質で運営を続けられる。この状態は、運営指導にも強いですし、M&Aにおいても非常に高く評価されます。結局、引き継ぐというのは、「事業や会社を買う」だけではなく、「仕組みを引き継ぐ」ことでもあります。属人化していない事業所は、それだけで引継ぎやすいのです。
土台がしっかりしている事業所は、結果として売上も強い
ここは誤解してほしくないのですが、運営指導に強い事業所というのは、守りに入っている事業所ではありません。むしろ、土台がしっかりしているからこそ、しっかり売上をつくることができます。
人員体制に無理がなく、計画と記録がつながり、加算の算定条件も揃っていて、必要な書類も整っている。そのうえで売上をつくれている事業所は、非常に強いです。なぜなら、その売上は偶然ではなく、安定した運営の上に積み上がっているからです。安定していれば、福利厚生や昇給、人材育成にも目を向けやすくなる。職員が働きやすい環境ができれば、定着にもつながる。
そして今の時代、安定している良い事業所には、人も集まりやすくなります。少子高齢化で人材確保がますます難しくなる中、運営が整っていて安心して働ける事業所が選ばれるのは必然です。
そう考えると、運営指導に強い状態をつくることは、単なる対策ではなく、事業所の競争力そのものだと言えるでしょう。
まずは、自分の事業所の今を知ること
大切なのは、まず今を知ることです。
- 自分の事業所は、今どんな状態なのか。
- 人員体制に無理はないか。
- 記録と請求はつながっているか。
- 加算の算定条件は本当に揃っているか。
- 法定書類は整っているか。
- 委員会や会議はきちんと実施できているか。
- そして、特定の誰かがいないと回らない状態になっていないか。
こうしたことを、感覚ではなく、きちんと見直していくことが大事です。
日々の業務は本当に忙しいです。だからこそ、目の前の業務をこなすだけでなく、先を見据えて少しずつでも整えていくことが必要になります。そのための一歩として、まずは自社の現状を把握すること。
生き残るためにも、M&Aで評価されるためにも、そして将来どんな形になっても困らないためにも、運営指導に強い事業所にしていくことは、もはや特別なことではなく必須です。
今の状態を知り、先を見据えて行動する。その積み重ねが、強い事業所をつくっていくでしょう。

片山 海斗 氏

