介護経営コラム

Column

「第51回衆議院議員選挙の結果を踏まえた介護業界への影響と次期介護報酬改定に向けた介護事業経営実態調査の開始について」

更新日:2026年3月19日
「第51回衆議院議員選挙の結果を踏まえた介護業界への影響と次期介護報酬改定に向けた介護事業経営実態調査の開始について」

1.第51回衆議院議員選挙の結果を踏まえた介護業界への影響

令和8年2月8日に第51回衆議院議員選挙の投開票が行われました。すでに皆さんご承知の通り、自由民主党単独で3分の2を超える議席となる歴史的な大勝となりました。

この衆議院議員選挙の結果が、介護業界にどのような影響を及ぼすのかを論考します。今回の選挙は、責任ある積極財政を標ぼうする高市政権の信任を問う選挙として位置づけられていました。高市総理は選挙戦にあたり、与党での過半数を下回る結果となれば総理を辞任することを公言していました。結果は国民の多くが高市政権を信任する形となりました。

つまり責任ある積極財政による政策が継続されることを意味しており、私は介護業界にとっては良い流れへと繋がると思います。高市政権においては、すでに昨年末に決定された補正予算による総合経済対策や臨時介護報酬改定において、大きな介護の予算が確保されており、加えて令和8年度診療報酬改定においても、本体報酬は3%を超えるプラス水準となり30年来の高水準となりました。いよいよ来年4月の令和9年度介護報酬改定に向けた議論がこれから本格化することとなります。年末には全体改定率が決定されることとなり、その時の政治情勢による部分も大きいため、現時点ではまだ断定はできませんが、これまでにない大きなプラス改定を期待することも出来ると思います。

一方で今後の注目ポイントとなるのは、財源確保に向けた議論です。とりわけ、高市政権は今回の選挙戦において、食料品に限定した消費税の減税について検討の方向性が示されています。選挙結果を踏まえて限定的な消費税減税の可能性が高まったと言えますが、海外メディアでは高市政権による消費税減税による財政悪化の懸念が報道されており、更なる円安誘導へと繋がる可能性を秘めています。また、何より消費税減税によって政府の税収が減少することは間違いなく、その上で、介護報酬のプラス改定を実現するとなれば、財源をどのように確保するかはいっそう厳しい目が向けられることとなります。この消費税減税や財源確保に向けた議論は、新たに設置された国民会議によってこの夏をめどに中間報告書の取りまとめに向けた議論が行われることになります。その議論のゆくえにも大きな注目が必要となります。

2. 令和9年度介護報酬改定に向けた今後の注目ポイント

介護業界はいよいよこの春から令和9年度介護報酬改定に向けた本格的な議論が行われることになります。前述の通り、全体改定率には大きな期待を持つことは出来ると思いますが、もちろん一律全てのサービスや加算がプラスとなるわけではなく、濃淡がつくこととなります。また、次期改定の制度全体としては将来の大改革に向けた一里塚となる重要な改定の側面があると思います。

次期改定に向けた議論のポイントと考えられることは、まずは、昨年12月25日に介護保険部会において「介護保険制度の見直しに関する意見」が取りまとめられましたが、その中でも示された中山間・人口減少地域における柔軟な対応として、人員配置要件を柔軟な取り扱いとする特例介護サービスや、訪問介護における包括払いについてなどの詳細議論が詰められていくことになります。更には、昨年の7月25日に「2040年に向けたサービス提供体制等の在り方に関する在り方検討会」とりまとめが行われましたが、そこで示された方向性である「人材確保」「生産性向上」「経営の協同化・大規模化」「医療介護連携」「認知症施策」「自立支援・重度化防止」「科学的介護」「介護予防」などが次期改定での大きなテーマとなることは間違いありません。

合わせて、来年4月より有料老人ホーム等の登録制が開始されることに伴い、次期改定においても集合住宅における囲い込み対策とともに、前回改定で基本報酬単位のマイナスとなった訪問介護の在り方は大きな議論のポイントになります。合わせて登録制の有料老人ホーム等に対応する新しい相談支援のサービス分類の詳細な議論も行われることになります。
そして、何といっても介護従事者の処遇改善については、今年6月の臨時改定による手当の状況も踏まえて、他産業との所得差を埋めるべく次期改定においても最大のテーマとなることは言うまでもありません。

消費税減税や財源問題とともに全体改定率のゆくえに加えて、介護給付費分科会による各テーマの議論のゆくえを、これからしっかりと注目していきたいと思います。

3.令和8年度の実施案とその重要性について

そして、このほど次期報酬改定の大きな影響を及ぼすこととなる令和9年度介護報酬改定の基礎資料となる令和8年度介護事業経営実態調査の実施案が示されました。この調査において示される介護事業全体や、サービスごとの収支差率(介護事業の収入と支出の差額の収入に占める割合。いわゆる利益率。)は、改定率に最も影響を与える数字となります。調査は5月に実施され、結果は10月ごろに公表される予定であり、その後、11月~12月ごろに次期改定の全体改定率の決定へと繋がります。

この調査で示される介護サービスの収支差率については、以前より介護現場からは正確性に疑問の声が上がっています。収支差率は数字が高ければマイナス改定、低ければプラス改定へと繋がる可能性が高まると言っても過言ではありません。正確性に疑問が持たれている主たる要因は、2つであると推察しています。1つは、調査の有効回答率です。前回調査では48.3%であり、半分以上の事業所は調査に回答をしていません。調査票への回答には一定の事務負担が生じるため、事業運営に余裕の無い事業所ほど回答を控える傾向にあると思います。事業運営に余裕の無い事業所は、採算の取れていない事業所である可能性も高いため、有効回答率が低ければ収支差率が高まる可能性があります。そして、もう1つは、調査における支出項目の中で、本部経費の事業所案分を計上することが可能ですが、計上されていないケースが散見されています。事業運営における本部経費とは、本部社員の人件費や、広報費、採用広告費、研修費など様々です。調査票は本社ではなく、各事業所に送付されます。事業所の管理者のほとんどの方は本部経費の正確な数字を知り得る立場にはありません。従って、本部に確認の上で対応することが求められますが、そもそも本部経費を計上することが可能なルールを知らない管理者も多いため、管理者が知りうる範囲の収支結果を記載して提出してしまうと本部経費が計上されずに、本来より高い収支差率となってしまいます。このような背景を踏まえて、厚生労働省は、前回調査より、調査票の本社一括送付の仕組みを導入しています。事業所を複数展開している法人や、広域展開している法人では、是非とも事前届け出が必要となる本社一括送付の対応を検討ください。

前回の経営実態調査の結果によって訪問介護事業の収支差率が全体平均と比べて高いことから、前回報酬改定において訪問介護の基本報酬単位がマイナスとなり、業界に大きな波紋が広がりました。今回の調査では、訪問介護における住宅型有料老人ホームなどの集合住宅に対する訪問割合に応じた調査を行うなど、よりきめ細やかな調査設計が行われています。訪問介護の調査結果は特に業界から注目されることになると思います。

この調査における調査対象事業所は無作為に抽出されることから、全ての事業所に調査票が届くわけではありませんが、事業所の皆さん方は、調査票が届いた際には、本社に問い合わせ本部経費を計上した上で、必ず提出して欲しいと思います。繰り返しとなりますが、この調査結果が、次期報酬改定における改定率の決定に極めて大きな影響を及ぼすこととなります。正確な調査結果となるように介護業界全体がしっかり調査に協力していくことが大切であると思います。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
立命館大学を卒業した後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。飲食業のコンサルティング、事業再生などを手がける。 その後メディカル・ケア・サービス株式会社に入社し、「愛の家」ブランドでグループホームを全国に展開し、取締役運営事業本部長に就任。 2010年に、株式会社日本介護福祉グループへ入社。「茶話本舗」ブランドで小規模デイサービスをフランチャイズ展開し、取締役副社長に就任。 2013年に、株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。 一般社団法人日本介護ベンチャー協会の代表理事、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を運営する一般社団法人日本介護協会副理事長、 その他にも多くの介護関連企業・団体の役員・顧問を務めている。


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