介護経営コラム

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「令和7年度補正予算による総合経済対策と令和8年度臨時介護報酬改定のゆくえ」

更新日:2025年12月1日
「令和7年度補正予算による総合経済対策と令和8年度臨時介護報酬改定のゆくえ」

1.令和7年度補正予算による総合経済対策の処遇改善ポイント

高市政権は、令和7年11月21日付で、令和7年度の補正予算による総合経済対策を閣議決定しました。減税分を加えた規模は21.3兆円と前年度を大幅に上回る大規模な財政出動となります。高市総理は、就任後すぐに「介護・福祉分野に対する物価高対策と賃上げの原資確保について、報酬改定の時期を待たずに対応する」ことを言明しており、今回の総合経済対策に、その具体策が盛り込まれることとなりました。
まだ、本コラム執筆の段階では、個別具体的な政策例は示されておりませんが、私が政府・厚労省との交渉の過程で確認している情報とともに、すでに公表されている内容と合わせて改めて解説いたします。

まず、介護従事者に対する処遇改善ですが、すでに一部に報道等で公表されている通り、居宅介護支援、訪問看護、訪問リハビリテーションを含む全ての介護サービス従事者に対して、1人あたり月額1万円程度の改善が、6か月間行われることとなります。その後は、来年春の臨時介護報酬改定を経て、処遇改善加算へと組み込まれることとなります。
つまり、居宅介護支援等のサービスにもいよいよ処遇改善加算が創設されることとなります。10年来の悲願とも言うべき対応がついに実現することになります。ただし、残念ながら今回、上限価格設定はあるものの、値段設定に自由度のある福祉用具については、他サービスとは状況が異なるため支給の対象外となります。
この月額1万円程度に加えて、従来から処遇改善加算が算定されているサービスに対しては、昨年の令和6年度補正予算と同様の措置による職員の処遇改善への活用か、職場環境改善への法人経費か、いずれにも活用可能な予算が1人あたり月額5千円程度の金額として支給されることとなり、こちらも処遇改善の原資とすることが出来ます。加えて、生産性向上に対する取り組みをしっかりと行っている事業所に対しては、更に1人あたり4~5千円程度の処遇改善が支給されることになります。つまり既存の処遇改善加算が算定できる事業所では、最低でも月額1万円から最大では2万円程度の処遇改善が、理論値ではありますが支給されることとなります。

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2.令和7年度補正予算による総合経済対策の事業者向け物価高対策ポイント

次に、法人・事業者向けの物価高対策について確認したいと思います。こちらもまだ詳細施策が明確には示されてはいませんが、過去の政権でも実行されてきた重点支援地方交付金に予算を上乗せしたうえで対策として講じられることになります。しかしながら、この交付金の活用に際して、配分方法や金額規模は自治体ごとの裁量に委ねられているため、介護業界には支給されないケースも過去には散見されています。従って、この交付金による対応では、全ての介護事業者へ物価高対策が支給されるわけではありません。そこで、今回の総合経済対策では、新たに、介護・福祉事業者に限定した物価高対策の補助金が支給されることになります。サービスごとの金額設定や諸条件などはこれから詰められることとなりますが、1事業所ごとにまとまった補助金が確実に支給されることになるので、事業者にとっては大変有り難い措置となります。加えて交付金が介護事業者にも支給される自治体においては、両方の物価高対策を得られる可能性もあるため、事業者は自治体ごとの対応をしっかりとチェックしていくことが重要となります。

3.令和8年度臨時介護報酬改定のゆくえとその後の制度改革に向けて

今回の令和7年度補正予算による総合経済対策は、年明け早々にも全国の介護事業者へ支給されることになります。これからの詳細発表に注目するとともに、処遇改善措置、事業者向けの物価高対策の申請手順の発表をしっかりと確認し、申請を漏れなく行い、積極的に活用することが事業者には不可欠な対応となります。
そして、来年春には、臨時の介護報酬改定が行われる方針であることもすでに示されています。しかしながら、あくまで処遇改善加算の見直しと上乗せのみの対応であり、各サービスの基本報酬単位の見直しはありません。
従って、事業者向けへの来年度(令和8年度)の支援策は、来年度予算での検討や、1年後の令和8年度補正予算による措置を更に勝ち取れるように、今後のロビー活動が重要となってまいります。
また、処遇改善加算の見直しにおいては、前述した月額1万円程度の処遇改善策が加算に組み込まれる可能性は高いと言えますが、それ以上の金額については、今後の検討議題となります。令和7年12月中には、概ね来年度予算案が固まってまいりますので、私自身としても、代表を務める全国介護事業者連盟を通じて、政府にしっかりと掛け合っていきたいと思います。その交渉やロビー活動による成果次第ですが、短期間での更なる処遇改善や物価高対策を勝ち得ることもできるかもしれません。
そして、年が明ければ、いよいよ令和9年度の介護報酬改定に向けた議論が本格化していくことになります。これから介護保険制度改革に向けた動きが極めて活発な時期を迎えることになります。引き続き、本コラムを通じて、タイムリーな情報提供を行っていきたいと思います。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
立命館大学を卒業した後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。飲食業のコンサルティング、事業再生などを手がける。 その後メディカル・ケア・サービス株式会社に入社し、「愛の家」ブランドでグループホームを全国に展開し、取締役運営事業本部長に就任。 2010年に、株式会社日本介護福祉グループへ入社。「茶話本舗」ブランドで小規模デイサービスをフランチャイズ展開し、取締役副社長に就任。 2013年に、株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。 一般社団法人日本介護ベンチャー協会の代表理事、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を運営する一般社団法人日本介護協会副理事長、 その他にも多くの介護関連企業・団体の役員・顧問を務めている。


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