介護経営コラム

Column

審議終盤!2027年度介護保険制度改正の動向

更新日:2025年12月1日
審議終盤!2027年度介護保険制度改正の動向

今回のコラムでは、2025年後期の運営指導対策の現状と、指導の仕組み、チェック項目などを解説し、よくある指摘ポイントや対策を記載する。運営指導対策についてより理解を深め、「指摘なし」となれるようぜひ最後までご覧いただきたい。

1,地域社会の維持と持続可能性の両立

2027年度の介護保険制度改正は、単なる報酬改定に留まらず、2040年を見据えた制度全体の構造的再編を目指している。人口減少と高齢化の進行、特に生産年齢人口の急速な減少が見込まれる中、介護サービスの需要増大と人材不足の深刻化という構造的な課題に直面しているからである。特に、高齢化や人口減少のスピードには地域差があることから、全国を一律で扱うのではなく、「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の三つの類型に応じた対応策を、第10期介護保険事業計画に向けた基本指針で示す方向で議論が進められている。事業者においては、自らの事業がどの類型に属し、どのような戦略的転換が求められているかを深く理解する必要がある。

2,地域サービスの維持確保に向けた柔軟な枠組み

サービス需要が減少する「中山間・人口減少地域」においては、「保険あってサービスなし」の状況を避けるため、サービス提供の維持・確保を前提とした新たな柔軟化のための枠組みの導入が検討されている。これらの地域では、生産年齢人口の減少が全国に比して進んでおり、専門職等の人員基準を満たすことが困難になっているケースが発生しているためである。

この新たな枠組みとして、特例介護サービスの拡張が検討されており、サービス・事業所間の連携を前提とした管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和などが考えられている。また、特に訪問系サービスについては、現行の出来高報酬に加え、月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とする枠組みが提案されている。この包括的評価は、季節による繁閑が大きい地域や小規模な事業所において経営の安定や、移動時間等の地域の実情を考慮した報酬設定、継続的かつ安定的な人材確保につながる可能性といったメリットが期待されている。ただし、利用者間の不公平感を抑制するため、利用者像ごとに複数段階の報酬区分を設定するなど、きめ細かな報酬体系とする方向で検討が必要である。

さらに、市町村が地域のサービス需要や提供体制の実情に応じて、介護サービスを給付に代わる新たな事業(新類型)として介護保険財源を活用し実施できる仕組みも検討されている。これは利用者ごとの個別払いではなく事業費(委託費)として支払うことで、収入の予見性を高め、経営の安定につなげることが主な目的とされている。また、小規模な事業者が多い離島・中山間地域では、事業継続のために、介護事業者間の連携・協働化を推進する法人が中心的な役割を果たし、インセンティブを付与することが重要であるとの指摘がある。

3,ケアマネジメント改革と専門職の役割明確化

介護保険制度の要であるケアマネジャー(介護支援専門員)は、従事者数が横ばい・減少傾向にあり、高齢化が進展する中で、その人材確保と業務負担軽減が喫緊の課題となっている。
業務負担軽減に関しては、法定業務であるケアプラン作成や給付管理等の事務的な業務の効率化を図る一方で、身寄りのない高齢者等への生活課題対応(ゴミ出し、通院時等の送迎、死後事務など)といった、ケアマネジャーがやむを得ず実施しているシャドーワークについて、地域課題として地域全体で対応を協議し、適切な主体へ引き受けてもらう環境を整備する方向で検討が進められている。

また、ケアマネジャーの資格取得要件の見直しも議論されており、医療・介護の連携の要として多様な背景を持つ人材の参入を促進する観点から、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、公認心理師といった国家資格を新たに受験資格として認めること、さらに、現行の実務経験年数5年を3年に見直し、新規入職を促進することも提案されている。

加えて、5年ごとの更新制が時間的・経済的負担が大きいという指摘を受け、更新研修の廃止や、それに変わるオンライン研修の受講義務を、毎年課す仕組みなど柔軟な受講環境を整備する方策が検討されている。これらの措置は、ケアマネジャーが本来の業務である個々の利用者に対するケアマネジメントに注力できる環境を整備することを目的としている。

イメージ画像

4,有料老人ホームの健全化と「囲い込み」対策

「終の棲家」としての役割が増している有料老人ホームについて、一部の「住宅型」有料老人ホームにおける入居者に対する囲い込みや、事業者の経営破綻による入居者への影響といった問題に対応するため、規制強化の方向性が示されている。

具体的な対応として、中重度の要介護者や医療ケアを要する者、認知症の方などを入居対象とする有料老人ホームに対して、登録制といった事前規制の導入を検討する必要がある。この際、高齢者の尊厳の保障やサービスの質の確保の観点から、職員配置基準や運営体制に関する一定の基準を法令上設けることが必要となる。

「囲い込み」対策の核心として、住まい事業(不動産部門)と介護サービス等事業(介護部門)の経営を明確に区分し、それぞれの会計が分離独立して公表され、その内訳や収支を行政が確認できる仕組みが求められている。また、有料老人ホーム運営事業者と同一・関連法人の介護事業者によるサービス提供が提示される場合、ケアマネ事業所やケアマネジャーの独立性を担保する体制を確保する措置(指針の公表、研修、相談担当者の設置等)が重要である。

さらに、入居希望者が適切に情報に基づき選択できるよう、情報公表システムを充実させること、また、要介護度や看取りの時期によって高額な紹介手数料を設定する事例が確認された入居者紹介事業についても、手数料の算定方法等(月当たり家賃・管理費等の居住費用をベースに算定することが適切)を公表し、透明性と質の確保を図る仕組み(優良事業者認定制度など)の創設が有効であるとされている。

5,介護現場の業務効率化と生産性向上への集中投資

介護人材の確保は最大の課題であり、制度は処遇改善に加え、職場環境改善・生産性向上の推進に重点を置いている。生産性の向上を達成するためには、業務内容の明確化や見直しを行い、介護助手等による適切な役割分担(タスクシフト/シェア)介護ロボット・ICT等のテクノロジーの活用を進めることが重要である。テクノロジーの活用により削減した時間を、直接的な介護ケアの業務や職員の残業削減、教育・研修機会の付与などの職員への投資に充てることで、介護サービスの質の向上と人材定着を推進することが必要である。

この取り組みを促進するため、都道府県が主体となり、介護事業者等からの相談を受け付け、適切な支援に取り組む介護生産性向上総合相談センターの設置が進められている。また、小規模事業者においては、単独での取り組みが困難な場合が多いため、経営支援や人材確保支援に取り組む機関と連携の上、生産性向上を中心に一体的に支援する伴走支援の枠組みを構築していくことが求められている。事業者は、これらの国の支援策や基金の活用を積極的に検討し、協働化や連携を通じて業務の効率化を進めることが、2027年度以降の事業の持続可能性を左右する重要な経営判断となるであろう。

これらの多様な改革の動向は、介護サービス事業者の皆様に対し、地域特性、人材戦略、倫理的運営、そしてテクノロジー活用といった多角的な視点から、自身の事業のあり方を再構築することを強く求めていると言えよう。2027年度に向けた審議は、12月末までに取りまとめられる。

ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表。 一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。 一般社団法人介護経営研究会 専務理事。 一般社団法人介護事業援護会理事。 C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。


無料簡易査定で会社がいくらで売れるのか確認できます
今すぐ売却相談をしたい方はこちら