介護経営コラム

Column

介護職員にもチャンスがある「叙勲」──長年の勤務に、感謝を形に

髙山 善文 氏
更新日:2025年10月31日
介護職員にもチャンスがある「叙勲」──長年の勤務に、感謝を形に

1. はじめに──介護職員も対象となる叙勲制度

今年も11月3日 文化の日に行われる「秋の叙勲」の発表の季節になりました。
この叙勲、実は介護職員も推薦によって応募できることをご存じでしたでしょうか。

「叙勲(じょくん)」とは、長年にわたり社会や公共のために尽力した人を国が顕彰する制度です。天皇陛下から勲章が授与される、由緒ある国家表彰であり、春(4月29日・昭和の日)と秋(11月3日・文化の日)の年2回実施されています。毎回おおむね4,000名程度が受章し、その功績は教育・医療・産業・地域福祉など、さまざまな分野にわたります。

2. 一般推薦制度とは何か

叙勲と聞くと、「公務員や経営者など特別な人が対象」と思われがちですが、平成15年から導入された「一般推薦制度」によって、一般市民も推薦により候補となることが可能になりました。

この制度は、表に出にくい現場で、長年にわたって社会に貢献してきた方を広く顕彰することを目的に設けられました。たとえば保育士、介護職員、看護師、保健師、助産師、離島やへき地で働く医師など、地域の最前線で支援に尽くしてきた人々がその対象に含まれます。

3. 対象となる介護職員の条件

叙勲の対象となる介護職員は、一般推薦制度のうち、
「精神的または肉体的に著しく労苦の多い業務に精励した方」
「人目に付きにくい分野にあって多年にわたり業務に精励した方」
として、以下の条件を満たす方が中心となります。
1. 国家または公共に対し功労のある55歳以上の方であること。
2. 勲章は生涯にわたる功労を評価するため、最も短い場合でもおおむね20年の活動歴(実務経験)が必要とされます。
3. 職務に誠実に取り組み、多年にわたり業務に精励した功労が認められること。
4. 勲章を既に受章している方や、功労が公務員としての功労のみの方は対象外となります。
特に、2000年の介護保険制度創設当初から現在まで、長期にわたり介護の現場を支えてきた方々のように、制度の歩みとともに多大な功績を積み重ねてきた方は、推薦対象者として適切であると筆者は考えます。

4. 実際に叙勲を受けた介護職員の事例

介護の現場からも、叙勲を受けた方が数多くいらっしゃいます。
たとえば、奈良県の高齢者福祉施設で33年以上にわたり勤務された介護職員の女性が、「瑞宝双光章(ずいほうそうこうしょう)」を受章されました。彼女は受章の喜びについて、「驚きと喜びの気持ちでいっぱいです。この受章を励みに、これからもより喜んでいただける介護サービスの提供に努めます」と語っています。
また、青森県の社会福祉法人に勤務する介護職員の女性も、「瑞宝双光章(ずいほうそうこうしょう)」を受章されました。34年間にわたり介護の最前線で活躍し、介護の仕事を「大好き」と語る彼女は、いつも穏やかな平常心を保ち、利用者様やご家族、同僚への思いやりにあふれています。周囲からの信頼も厚く、後輩職員の良き手本として、現場を支え続けてこられました。

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5. 表彰の意義──介護という「見えにくい功績」への光

介護の仕事は、利用者の生活を支える大切な仕事でありながら、その成果が数字や実績として見えにくい分野です。
だからこそ、こうした国家的な表彰を通じて、「人を支え続けてきた努力」が社会に認められることには、大きな意味があると考えます。

叙勲の受章は、本人の名誉であると同時に、介護という職業の価値を社会に発信する契機になります。介護職員の地位向上や人材確保の観点からも、こうした公的表彰を広く周知し、現場の励みとすることが望まれます。

6. 推薦の流れとポイント

推薦の流れは以下の通りです。

1. 候補者の選定:国家または公共に対し功労のある55歳以上の方で、おおむね20年の活動歴を有するなど、叙勲に値する功労のある職員を選出します

2. 推薦者・賛同者の確定: 推薦者1名と賛同者2名を決定します。ご自身や二親等内の親族は推薦者・賛同者になれません

3. 推薦書類の作成: 内閣府が提供する様式を用い、活動実績や功労の内容を記載した推薦書1通と賛同書2通を作成します

4. 内閣府への提出: 年間を通じていつでも、内閣府担当あてに郵送(または電子メール)にて提出します

5. 選考・結果通知: 提出後、内閣府と関係府省等の協議により候補者として適当か否かが個別に判断されます。その結果は、推薦者に文書を郵送してお知らせされます(結果通知まで功績の内容により1年程度かかることもあります)

詳細は、内閣府の公式サイトにて一般推薦制度の要綱やフローチャートなどで確認することができます。
春秋叙勲の候補者としてふさわしい方の推薦(一般推薦)について

7. 経営者・管理者の方々へ

介護事業の経営者や管理者の方々は、ぜひ自社・自施設の中に長年にわたって現場を支えてきた方がいないか、あらためて見直してみてください。

日々の介護業務においては、制度改正や職員確保に追われ、個々の努力が埋もれがちです。しかし、20年、30年と現場を支え続けてきた職員の存在は、まさに事業の礎であり、地域にとっての財産です。
そうした方々を国に推薦することは、本人にとっての栄誉であるだけでなく、法人や地域全体の誇りともなります。

叙勲は、ひとりの職員の物語であると同時に、仲間全員の努力が実を結ぶ瞬間です。受章の知らせは、本人にとっても、施設にとっても、涙があふれるほど誇らしい出来事となるでしょう。
それはきっと、一生記憶に残る“感謝と敬意”の表彰になるはずです。

参考:政府広報オンライン 勲章のはなし 国が功労を表彰するということ

ライター紹介
髙山善文
髙山 善文(たかやま よしふみ)氏
ティー・オー・エス株式会社 代表取締役
大正大学 社会福祉学部 非常勤講師

30年以上にわたり介護業界の最前線で活躍してきた、信頼と実績の“現場派”コンサルタント。制度・経営・ICT導入・外国人材支援から海外展開まで、幅広い分野に携わりながら、常に「現場の声」に耳を傾けてきました。有料老人ホームの施設長や福祉機器メーカー勤務、自治体の介護保険事業支援など多彩な経験を持ち、現場と行政の両方に精通する稀有な存在。介護支援専門員・防災士・福祉サービス第三者評価者としても活動し、実践的かつ現場目線のアドバイスには定評があります。「難しいことを、わかりやすく」「介護という職種をもっと前向きに」。そんな思いから、執筆や講演にも積極的に取り組み、著書に『図解即戦力 介護ビジネス業界のしくみと仕事』(技術評論社)、『介護の現場と業界のしくみ』(ナツメ社)などがあります。現在は、これまで築いてきた業界ネットワークをもとに、理論と実践を融合させた「高齢者の住まいづくり」に挑戦中。介護の周辺ビジネスに関心のある方、新しい取り組みを模索している方、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

【問い合わせ先】
https://www.jtos.co.jp/


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