介護経営コラム

Column

厳しい制度改革が予測される集合住宅・住宅型有料老人ホームのゆくえ

更新日:2025年9月29日
2027年介護保険制度改革と介護職員の処遇改善のゆくえ

1.第27回参議院議員選挙を踏まえた介護業界への影響

今後の社会保障制度改革において、大きな焦点となるサービスの1つは間違いなく集合住宅併設の介護サービスです。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や、住宅型有料老人ホームと言われるサービス形態であり、訪問介護を組み合わせてサービス提供している手法が一般的であります。
この集合住宅併設の介護サービスは、利用者の囲い込みや、過剰サービス、画一的なサービスなどの問題がある運営を行っている法人が一定数存在しており、業界の重要テーマの1つとして長らく議論されています。厚生労働省もこの問題視しており、介護報酬改定の都度、制度見直しや対策が取られ続けています。令和6年度介護報酬改定においても、集合住宅に対する訪問介護において、個別の自宅への訪問の割合が1割未満の事業所は、基本報酬単位の更なる減算となる見直しが行われたところです。
加えて、近年では、集合住宅において入居者を終末期の要介護高齢者に限定し、介護報酬における訪問介護とともに、診療報酬における訪問看護を組み合わせたいわゆるホスピス型有料老人ホームが注目され、全国に拡がっています。しかしながら、このホスピス型有料老人ホームの大手法人において、法的にも問題のある運営が行われているのではないかと報道されており、大きな課題が指摘されているところです。

イメージ画像

2.2027年介護保険制度改正・介護報酬改定のゆくえ

このような状況を踏まえて、厚生労働省は令和7年4月14日に「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を設置し、関係者による議論が行われているところです。令和7年7月25日には、議論の整理が取りまとめられて示されました。

今回の論点は大きく3つ示されています。
  • ① 有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方
  • ② 有料老人ホームの指導監督のあり方
  • ③ 有料老人ホーム等における囲い込み対策のあり方

まず、①有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方については、特定施設入居者生活介護と住宅型有料老人ホームの役割や定義を整理しており、いわゆるホスピス型有料老人ホームなどの在り方も議論が行われています。また、「利用者による有料老人ホームやサービスの適切な選択」を議題として、老人ホーム紹介センターの役割やガイドラインの必要性の有無などが議論されており、優良な紹介センターの認定制度の必要性などが議論されています。
続いて、②有料老人ホームの指導監督のあり方については、有料老人ホームの届け出が行われていない集合住宅も含めた指導体制のあり方や、有料老人ホーム等の開設に関する規制のあり方、一部の悪質な事業者の指導監督体制の強化等の議論が行われています。
最後に、③有料老人ホーム等における囲い込み対策のあり方については、最大の論点となります。サービスの質の観点や、自立支援に資するかどうかなどを焦点として過剰サービスのチェック体制のあり方などが議論されており、特定施設入居者生活介護のケアプランなどとの整合性を確認し、過剰サービスや適切かどうかの議論が行われています。加えて、居宅介護支援事業におけるケアプランの在り方、適切なケアマネジメントの点検体制のあり方なども議論が行われています。
しかしながら、今後の議論の中で、留意していくべきは、ホスピス型の有料老人ホームにおける不適切な運営や、集合住宅における過剰サービスなどの問題ある運営を行っている老人ホームに対しては、改善に向けた厳しい対応が必要であることは間違いありませんが、一方で、一部の問題ある事業所の悪影響から、健全な運営を行っている多くの老人ホームに過度な悪影響が生じてしまうルールの見直しが行われてはいけないと思います。

3.中医協の動向とホスピス型有料老人ホームのゆくえ

次期介護報酬改定の議論に先行して、2026年診療報酬改定に向けた動きはいよいよ本格化してまいりました。令和7年8月27日に開催された中央保険医療協議会総会(中医協)では、議題に「在宅について」が示され、訪問看護について議論が行われました。
前述の通りいわゆるホスピス型の有料老人ホームでの不正や、過剰・画一的な訪問看護のあり方等の厳しい報道を踏まえて、今回の中医協においても、集合住宅に対する訪問看護に関する課題指摘が数多く行われました。
合わせて精神科訪問看護の療養費の拡大への懸念も指摘が行われました。具体的には、そもそも訪問看護の利用者数は平成13年比で医療保険は9.9倍増となっています。また、レセプト1件当たりの平均医療費が50万円以上の増加率が717%となっており、ホスピス型有料老ホームの増加が顕著に示される形となっています。加えて、同一建物居住者への訪問看護の増加、別表第7及び第8の該当割合の増加、ターミナルケア療養費の増加、複数名訪問看護加算、難病等複数回訪問加算、夜間・早朝訪問看護加算、24時間対応体制加算、緊急訪問看護加算などの算定がいずれも増加傾向にあることがデータとして示されました。
(出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第615回) 在宅(その1))

今回の中医協の議論において示されたいずれのデータもホスピス型有料老人ホームの増加を懸念するものと言えることから、次期診療報酬改定においては、確実にホスピス型有料老人ホームに関連する加算等の厳しい見直しが予測されると言えます。一方で、多くのホスピス型有料老人ホームは適正な運営を心がけており、限定的な不正事案を基に過度な規制強化が行われることとは避けなければいけないと思います。

イメージ画像

4.集合住宅・有料老人ホームの次期改定に向けたまとめ

いずれにせよ、介護報酬改定・診療報酬改定とともに集合住宅・有料老人ホームが厳しい見直しとなることが予測されています。
まずは、2026年診療報酬改定は、年内には大きな方向性が示されることとなり、年明け以降に詳細な単位数が決定することとなります。ホスピス型有料老人ホームや集合住宅の運営事業者にとっては、大変心配な改定となります。
そして、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」での今後の議論のゆくえと、最終的な報告取りまとめの内容が、次期介護保険法改正や介護報酬改定にも大きな影響を及ぼすことは間違いないことであり、これから議論は本格化していくこととなります。引き続き議論のゆくえに注目が必要となります。

ライター紹介
斉藤 正行
斉藤 正行 氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
立命館大学を卒業した後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。飲食業のコンサルティング、事業再生などを手がける。 その後メディカル・ケア・サービス株式会社に入社し、「愛の家」ブランドでグループホームを全国に展開し、取締役運営事業本部長に就任。 2010年に、株式会社日本介護福祉グループへ入社。「茶話本舗」ブランドで小規模デイサービスをフランチャイズ展開し、取締役副社長に就任。 2013年に、株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。 一般社団法人日本介護ベンチャー協会の代表理事、介護業界最大級のイベント「介護甲子園」を運営する一般社団法人日本介護協会副理事長、 その他にも多くの介護関連企業・団体の役員・顧問を務めている。


無料簡易査定で会社がいくらで売れるのか確認できます
今すぐ売却相談をしたい方はこちら