2024年5月30日
介護保険制度

始まる新年度の運営指導

始まる新年度の運営指導

1.始まる新年度の運営指導

毎年6月は、新年度の運営指導が本格的にスタートする月である。役所関連は4月に人事異動がある。
運営指導を担当する地方公務員の場合は異動の頻度は3~4年に1回が一般的である。
これは、同じ部署を長期間担当することでの不正や汚職を防止する意味もある。そのため、地域によっては介護保険を所轄する部署の担当課長が3年程度で替わるたびに、ローカルルールが変わる問題も起こっている。

さらに、この3月で3年弱続いたコロナ禍特例も廃止となっている。
今後は、コロナ感染などを理由とした人員の欠員は、無条件で人員欠如減算につながっていく。これまで、コロナ禍特例措置を使っている場合は、その根拠となる記録が特に重要となるために、再チェックをしておくべきだ。特例はあくまでも特例であって本来の基準では無い。
しかし、特別措置の長期化によって慢性化し、都合の良い解釈や拡大解釈を行って居ないだろうか。
受講が義務化されている研修等を、コロナ禍を理由に参加しなかったり、加算の算定要件で必要な定期的な居宅訪問などを行っていないケースが見受けられる。
しかし、これらの特例は実施しなくても良いのでは無く、やむを得ない場合にのみ認められることを再認識すべきだ。

令和6年度介護報酬改定は、過去最大規模の改定となった。それは、変更項目が過去最大という意味でもある。
人員基準、運営基準はもとより、既存の加算の多くが、算定要件の変更があった。
通所介護における入浴介助加算での入浴介助研修要件が追加された。入浴介助研修を行わずに加算算定を続けた事業所は、運営指導において返還指導を受けることとなる。
体制届のルール変更も大きな改定であった。従来は、減算に該当する場合に体制届を提出した。今回からは、減算に該当しない旨の届け出を提出しないと、無条件で減算対象と見なされる。
BCP,高齢者虐待防止および介護施設における栄養マネジメントの減算がそれに当たる。介護事業者は、これらの変更を知らなかったでは済まない。

2.運営指導は、質から量の時代へ変貌した

2022年度から実地指導の名称が、「運営指導」に変更された。
その実施頻度は、原則、在宅サービスは、指定等の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上実施とされている。
また、施設サービス・居住系サービスについては、3年に1回以上の頻度となる。コロナ前の運営指導は、一日型が主流であった。現在は、1件について2時間程度で済ませて、一日に数件を廻る形が主流となっている。
運営指導は、質から量の時代へ変貌した。そのため、同一敷地内で複数の介護サービスを営む場合は、例えば午前中にデイサービス、午後から訪問介護と言ったように、一度で済ませることが多い。短時間で、効率的に指導を終えるために、運用指針のポイントを示した「標準確認項目」及び「標準確認文書」に基づいて実施されることになる。
現地での提供記録等の確認は、原則として利用者 3 名以内とされている。
居宅介護支援については、原則として介護支援専門員1人あたり利用者 1 名〜2 名の記録等を確認する。
確認される文書は、原則として実地指導の前年度から直近の一年間分である。この確認作業で問題無し、と判断された場合は、他のチェックポイントの確認に進む。
しかし、問題が発覚した場合は、更なる深掘りが待っている。問題が悪質と判断されると監査に切り替わることとなる。

3.監査と運営指導の違い

コロナ禍も明けて、昨年度より運営指導の実施件数が急増している。
それは、コロナ禍3年間の遅れを取り戻すかのような増加ぶりである。
今年度はさらに実施件数が増加するであろう。そのような中、厚生労働省から各保険者に向けて、「介護保険施設等に対する監査マニュアル」が発出された。
監査実績が少ない自治体の職員も含めて活用出来るように、監査業務の迅速化に向けて留意すべき事項をまとめた内容である。運営指導件数の増加と共に、監査対象案件も増える。同時に、行政処分件数も増加が見込まれる。それを迅速かつ効率的に処理するためのマニュアルである。

4.「介護保険施設等に対する監査マニュアル」が発出された

監査と運営指導は何が違うのか。
運営指導は、あくまで事業者の任意の協力によってのみ実現されるものである、よって、強制力はない。しかし、事業者側に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合は監査に移行する。
監査の実施によって事実関係を明確にした上で指定取消等の行政処分が行われる。
運営指導では、情報を集めるための権限のみが認められていて、立入検査などの強制力は無い。しかし、監査の場合には立入検査などの強制力が認められている。
監査は、人員基準違反、運営基準違反、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待、もしくはこれらの疑いがある場合に行われる。監査の結果として違反が確定した場合に行政処分が行われる。
行政処分は「指定の効力の全部または一部停止」と「指定取消」などの重たい処分まである。介護報酬の返還請求が同時に実施される。監査対象となって行政処分になることは、今後の事業運営では死活問題である。

5.内部監査システムの構築をすべき

介護サービスは、規模の利益を追求するのが基本的なビジネスモデルである。事業規模の拡大に気を取られて、基本的なコンプライアンス対策が後手後手に回っていることも多く見かける。早期に内部監査システムを構築して、運営指導を前提とした定期的なチェック体制を構築することが重要だ。

内部監査システムの構築では、第一段階として、現時点でのコンプライアンスチェックを外部の監査人によって実施し、問題点や監査のポイントを把握する。その現状確認と分析を行った上で、監査マニュアルとチェックリストを作成する。
また、内部監査のみだと、どうしても身内意識もあって遠慮も出てくる。よって、年に1回から2回は、外部からの監査チェックを実施することも大切だ。ぜひ、コンプライアンス部門の設置を検討して頂きたい。

始まる新年度の運営指導 資料出典:令和5年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料

総務課介護保険指導室[PDF形式:4.3MB]

ライター紹介
小濱 道博
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表

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